第12話 知恵の環
第12話
(The Ring of “Skientia"
The Wisdom Bound Within)
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洞穴の中で少女のペンダントがパアアッと、一度だけ紅い閃光を放った。
その紅い光の中から一本の線が伸びていって、大きく頑丈な扉の『 くぼみ 』がそれに応じるかのように紅く照らしだされるーー
が、しかし。
ノエマがいくらそこへペンダントを押し込んでも、うまくはめ込もうとしてもぴったりとはハマらなかった。ペンダントの形状がそもそもまるで違っているかのように。
ノエマはめずらしく焦っている様子で
小く呟いた。
「……なんで?……かたちが、ちがうの?……」
アルテナもその『 くぼみ 』をのぞき込むが、
「……うーーん。なんで上手くハマんないんだろ。やっぱ、びみょーにちがう形なのかもだな。」
ノエマのペンダントの紅い光はしまいに止んで、錆びた『 鉄の扉 』は完全に沈黙していた。
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先ほどの崩落で出来た広い空洞の一角に、二人と一匹はその日の
フィリムのツノが柔らかく光り、洞穴の中を薄く照らし出している。
するとノエマがバッグから、おもむろに缶詰を三つ取り出した。
「とりあえず、これ……」
「みんなの分も、もってきたから。
あっためて食べよう。」
「おおっ!さすがノエマ!ありがてぇ……。」
アルテナは、ノエマの その『 用意周到さ 』がなんだか妙にくすぐったくて。思わずニヤケそうになるのを必死で我慢した。
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「ノエマっへさー、ふぃっつも
缶詰持っふぇんのな?」
(ノエマってさー、いっつも缶詰持ってんのな?)
缶詰のパンをむしゃむしゃ
頬張りながらアルテナが言う。
「うっ……」
「……だって……わたし、
すぐお腹すくんだもん。……」
ノエマは恥ずかしそうにそう答えると、
可愛らしい反撃をしてくる。
「アルテナだって……
しゃべりながらたべると のどつまりするーー
と、言い終わらない内にアルテナは
「そんなことないーー
と続けようとして
「ほむっ!!……っげほっ!!ごほっ!
かはっ……ぶっ!……」
「……ああー今、三途の川の向こうで誰かが『おーい!こっち来いよー!』って叫んでたような……」
少女の心配事を見事に的中させ、少年はパンを喉につまらせたのであった。
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ノエマが左手でペシッと缶の底を軽く叩き、空いた方の掌で温度の波を起こす。
ほわあっと。缶詰を紅い光が包みこんで、たちまちコーンスープが入った缶詰がコトコトと揺れだして温まり、ふわりと湯気を立てた。
「うええーー?!……やっぱ、いつ見てもすげぇな。ノエマ、ちょっとおれにも教えてくんない?」
「ん、え? これ? かんたんだよ?」
「フィー…グルグルグル……」
「はは。フィリムも腹へってんのか?今日は……まじで色々あったかんなー……。うっし!そんじゃっみんな待ってろよ〜!」
そう息巻いたアルテナは、ノエマに『ひと通りのやり方』をざっくりレクチャーされ、右の掌を缶詰に近づける。
すると、ボワっとした碧い光が輝いて…
「うりゃっ!」
ボカンッ!!
缶詰の上蓋が勢いよく天井に吹っ飛び、エクスプロージョンした中身が少年の前で無惨に飛び散った。
「ぅおああ熱っちーーー!!!………………!?」
「アルテナ!?!?」
少女が本気で驚いた顔をしてそう言った。だが少年の大失敗は、予想外の結果を生み出した。
洞穴の端に流れていた細い川の筋、その付近から空洞内に漏れだして空気中を漂っていた薄いガス層と、アルテナの碧い光の力が反応し、それが『 変換 』されたのだった。
『ガス』が『青白い火』へと変化する。
その灯りが洞窟の端から端まで、ふわりと揺らめいて自然と空間全体を照らす、一繋がりの『 おしゃれなペンダントライト 』のようになった。
「……はい?」
アルテナは失敗を引きずって愕然としていた。矢先にこのようなある種の『
ノエマは土の壁に連なったその灯りを見て、見惚れるように言う。
「……アルテナが……これ、やったの……?」
「……ん?………え?? 」
「全然分からん…おれ今なにしたの??」
その時、フィリムが得意げに
「フィー!」と、体全体をフリフリさせていた。
洞窟には碧色の灯りが広がり、ようやく三人の表情に安堵が戻っていた。
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少女は温めたコーンスープを飲み終えると、
ぽつりと呟いた。
「カギって、このペンダントじゃ、ないってこと……?」
アルテナは首をひねりながらノエマに返す。
「んや、それで多分間違いないとは思うんだけど……何かが足りない……ような…」
「あの鉄の扉、ノエマのペンダントじゃ開けられなかったよな。」
フィリムがツノの光で少女の胸元をやわらかく照らす。ツノでコトンと、優しくペンダントをたたいた。
「フィリム?」
「フィー」
これからの方向性を示すかのように。
ノエマに『もっと、内側にあるものを見てみて』
と、そう伝えようとしているみたいに。
ノエマはフィリムのその意図をまだ理解できず、小さく小首をかしげた。
少年が不本意に起こした『
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