第8話 泣くだけ泣いたら

第8話 泣くだけ泣いたら

(Once you’ve cried all you can)


 幻惑の光がゆっくりと

砂の上に落ちて溶けていく。


 その光は、白紫色の環『 記憶の太陽 』によって

もたらされたものだった。


 そして幻環は静かに悠々と空に浮かんでいる。


 その中心に沈黙する『 漆黒の球体 』はまるで

『 まだ何かを飲み込もうと、その機会をうかがっている 』かのようだった。


一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

一一一一一一一一一一一一一

一一一


 砂漠の朝はいつも静かだった。

けれどその日ーーー


 いつもの毎日が大きく揺らいだ。ーーー


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 少年アルテナは、うっすらと目を開けた。


 木造の家の中は、『 ほこりのにおい 』がした。アルテナが目頭をつまんでぎゅっと押すと、泣き続けて腫れた目の奥がまだ熱かった。


 「あれ?おれ……」


 「そっか。あの後、そのまま寝ちまったのか……」


 体に掛かっていた布が肩からずり落ちかけて、それを少女ノエマがそっと直してくれた。


 「……?」


 「……アルテナ?おきた?」


 少女の声はいつだって夜明けの太陽みたいに眩しい。昨日もそうだ。今日だって少女の言葉は優しくて温ったかい。


 アルテナはそう感じた自分がなんだか気恥ずかしくなって、寝癖がついた髪を整えるフリをした。


 「……ん。もう……大丈夫。」


 「ノエマ、昨日はなんかその………」


 「ありがとな。」


 アルテナは、照れくささを誤魔化すように目をごしごしとこすって、『 胸の奥のざわめき 』が止んでいることに気付き、ようやく胸を撫でおろした。


▼▼ ▼▼▼ ▼▼▼


 すっかり身支度を済ませた二人と一匹は、互いに顔を見合わせていた。


 「木箱にあったこれ、わたしのペンダントとおなじ……?」


 「ほんとだな。似てなくもない……ような。つーか母ちゃんは、『 これ 』がなんだか知ってたって言うのか……?」


 「にしても相変わらずひっでぇ字だよなあーこの手紙……。」


 「ノエマ、良くこんなへたくそな字ィ読めたな。けど、これじゃあ……大事なことがなんにも分かんねえな……」



 するとフィリムが『 なにか 』を口にくわえたまま、アルテナの方へ とことこ近づいてくる。


 …ぽと。


 フィリムはアルテナの足元にその『 なにか 』を落とした。


 「……ん?お、フィリム?どーした?てか昨日はありがとな。あ、なんだこれ?」


 「もしかして、母ちゃんが手紙で言ってた『 おれが寝る時も手放さなかったってやつ 』か?」

 

 「なんか……『 USB 』みたいな形だな。」

「って…うおおーっ!?なんかまたきたー!!!」


 突然、少年の胸から碧い光が漏れ出した。


 ---記憶復元コードリカバリー---


---ログ更新:

アルテナ・フォッティーゾ(www)


--再構築率:0.27%

欠損記憶ロストコード復元完了


「いや……お前の声ひさびさ聞いたわ!」

「ってそっこーイジんなっ!!!」


 そんな時また、フィリムのツノが

微弱に反応しーー


 新たな方向を指し示し『 二人の失われた記憶 』への道がまた、新たに開かれたのだった。



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