第6話 かわいすぎるぜ!異星生物フィリム

第6話 かわいすぎるぜ!異星生物フィリム

(Too Cute! The Alien Creature “Filim”)


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 追憶いちどめの太陽が昇り、幻環はその白紫光を抑え、朝焼けを投影しているかのように二つの太陽は重なり、砂丘をえんじ色に染める頃ーー

 

 それはとても静かな朝とは言えない

一日の始まりだった。


♦︎♦︎♦︎ ♦︎♦︎ ♦︎♦︎


 ぴちょんっ……ぴちょんっ……


 ノエマは水滴の音で目を覚ました。


 二段ベッドから降りると地面には、

丸い水溜まりが出来ていた。


 薄暗い天井にじっと目をこらすと、そこから水滴が水溜まりへと落ちている。


 ノエマは透き通る水面に映る自分のぼさぼさの髪と細いシルエットをただ見つめていた。


「……きょうはちゃんときれいにしないと。」


 そう呟きながら『 龍の神殿 』の一角にあるシャワー室へと行き、汚れた服をテキトーにたたみ、それを古びた木棚に置いて蛇口をひねる。


 すると、水が跳ねるたびに肌が淡く光った。

 水の粒子とともに微かに発光する柔肌。それは、誰もがまだ気付いてはいない、少女が人類とは異なる存在であるという『 秘密 』。


 水しか出ないシャワーを浴びながらふとペンダントに触れると、微弱な振動が手に伝わり、胸の奥にじわりと冷たい結晶のようなものが生まれてきて。なんだかノエマはすこしだけ、かなしくなった。


 その理由は自分でもよく分からない。


 アルテナやフィリムとの出会い。

『 幻環 』『 龍の神殿 』ーー


 昨日見た記憶の端々から、どこか懐かしさを感じた。まるで、それが二つの太陽と呼応しているかのように。


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 シャワーを終えた少女の身体に残った水滴が、きらきらと淡く光っている。


「ふぅ。……やっときれいになった。」


 ボロい布タオルを巻いただけのノエマがふと振り返ると、半開きのドアーの向こうでそこにいたアルテナと偶然、視線が合ってしまった。


 「……アルテナ?」


 その声は、まるで雫が

落ちるみたいに澄んでいて。


「ッ!!ち、ちがっ……いや違わない!?」

「いや、えっと……違う!違わないけど違う!!」


「……そう!水溜まりの原因!調べてたら、分かったんだ…配管がやぶれっ…て、それで………」


 アルテナはドアーを背にしてさらに言葉にならない音を漏らすしかなかった。


 ノエマはそれについては怒らず、ただ静かに

頬を赤くして微笑むだけ。


 そしてノエマがタオルを胸に抱えて

近づいて来る。


 照れ隠しを今も続けている

アルテナのところへと。


 ノエマはそっと視線を落とし、背丈が自分より小さい少年に合わせてかがむ。


 そして、アルテナの背後に立って

耳元で小さく囁いた。


 少女の乾き切らないプラチナの髪が自分の頬にくっ付いて、少年の胸をドキドキさせた。


「……いまの、ひみつ。……ね?」


 アルテナの左胸がこれまでで一番大きな音を立てて跳ねた。淡い光はまだノエマの肩で揺れていて。


 その瞬間、二人の間には

秘密の

が生まれた。



 このなんともほほえましい『 小さな出来事 』は、後々になってこの物語を揺るがすとなることを、まだこの時には誰にも知るすべはなかった。



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 そんな朝の思いがけない

ハプニングから始まった一日。


 二人は砂漠の探索へと出かけた。


 ノエマは、姿勢を低くして、砂の表面を人差し指でなぞりながら、微細な砂の粒子の感覚を感じる。


 そんな時、アルテナの視界にはノエマが歩く先で、砂漠に埋まった瓦礫の影に何かが動くのが映った。


「ノエマ!ほら!あれ、なんか動いてねーか?」


「ふっふーん アルテナ、いまなんていったの?」


 アルテナが指で示した先で、『 小さな白い塊 』がサッと瓦礫に隠れたのが見えた。


ただ、動いた影は妙に素早く、『 野生の獣のような静けさ 』を漂わせていた。


 一瞬の出来事だったがノエマにはその姿がまるで、大きな食べ物みたいに見えていた。


「……でっかい、おもち?」


「え、今のなんだ……?動いたよな?

いや、まずあれ、何だよっ!?」


 『 まん丸い白い大福 』に『 一本のツノ 』がぴょこんと生えたようなその小さな生物は、再び二人の前にその姿を現し鳴き声をあげたーーー


「ッッッフィー!!!」


 二人は即座に体勢をととのえる。

だが、その小さな生命体は、突然暴れ出した。

そしてものすごい速さでこっちに襲いかかって来た。


 アルテナは、わけも分からず戦おうと身構える。するとノエマがとっさにその生物を背中に庇い、ファイティングポーズをとるアルテナと向かい合った。


「ノエマ、どうしたんだよ急に!」


「……この子、きずついてる。」

「だから、いたくて……あばれたんだとおもう。」


ノエマがそっと小さな生命体に手を伸ばすとーー


「ガジッッッ!!!」


 と、その生物は差し出されたその手にかみついて

それから気を失った。


 少年は何も言い返せないまま、少女のことをただ見つめることしか出来なかった。


 少女の手のみ傷からは、赤く輝く液体が流れ出していた。それでも、少女は両手でやさしく小さな生物の全身を包み込んで抱きかかえた。

 

 そして二人は『 龍の神殿 』に向かって一気に駆け出した。



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 二人は拠点である『 龍の神殿 』へと戻って来てすぐに、その小さな生物をベッドの上へと寝かせた。


 その体をよく見ると、背中に『 黒色のトゲ 』が突き刺さっていたのだ。


「痛みで混乱しておそいかかってきたのか……。」


「……生体反応とやらにも反応してない……」


 少年はそう言うとその場にしゃがんで俯いた。


 「「………………」」


「だいじょぶ、だよ。すぐたすけるから。」


 少女の声が龍の神殿内の沈黙を破った。


 そして、少女は両手を小さな生物の背中に当てる。すると、少女の胸のペンダントから紅い光が突如としてあふれ出し、小さな丸い生物の体全体を覆うようにして広がっていく。


「アルテナも……!!おねがい!」


「うえ?!って言っても、どうしたら……」

「?!?」


 アルテナの左胸は碧く輝き出していた。思わず立ち上がって、少女の両手の上に自分の両手を重ね合わせた。


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 すると小さな生物を紅と碧の光が混ざり合って、白紫色に輝き、目の前で『 奇跡 』が起こった。


 『 小さな白い生物 』の背中に突き刺さっていた『 黒いトゲ 』は、しだいに崩れ落ちるように消え去っていき、その小さな体がぴくんっ!と反応を示したーー



「フィー!!!」


 いきなりそう喋った『 おもち 』は、ぴょんっ!とベッドから飛び跳ねて、少女の小さな胸へと元気良く飛び込んだ。


「「………!!」」


「はは……治った……のか?それにしても、なんなんだこいつは?」


「……りむ……」


「フィリム!」


「フィー!」


「……ふう。っわあっ!!」


 アルテナの胸が再び碧く光り出し、小さな生物のツノが淡く光って二人の間を一本の光の線で結んだ。


---〈〈〈共鳴認証〉〉〉完了 ---


-----接続可能記憶:共鳴認証済

---識別名:フィリム

--波形:やや安定

-異星生物認識


 こうして、二人と謎の生物『 フィリム 』の奇妙で優しい旅が始まりを告げたのだった。


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