第5話 奇跡かよ。まじで。
第5話 奇跡かよ。まじで。
(A Miracle… Seriously?)
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「……ん、あれ……?ここ、どこだ?」
アルテナは目をこすり、薄暗い天井を
ぼんやりと見上げた。
昨日、二人で苦労して作った
『 二段ベッド・改( 超不安定 )』
の上段がみえる。
「あっ、そうだ!」
「はああ……昨日はなんか、
いつもの百億倍は疲れたな。」
だが、
「……ノエマ?」
上段にいるはずの少女の気配は、ない。
アルテナは弾かれたように
ベッドから跳ね起きた。
その時、頭をベッドの天井に強くぶつけて
『 二段ベッド・改 』の上段が
バラバラに吹っ飛んだ。
少年はそんなことにはまったく意識が向かず
「え……まじか……。ノエマ、どこいっちゃったんだよ、まじで!」
胸の奥がチクッと疼く。
『 また、だ 』
また急に、『 ひとりぼっち 』になったのかも知れない。そんなあってはならないイメージが、少年の脳裏をかすめる。
「まさか?…全部夢オチだったとか、ないよな……。」
「だとしたら、エンディング早すぎんだろ。神様。」
アルテナは半ばあきらめたように、小さな聖堂の外に出ると砂漠の熱風が、顔面に直撃した。
「ッッ……
重なる二つの太陽光が眩しく、砂漠一帯を真っ白に照りつける。
少年は目を細くして近くに見える砂丘、そのてっぺんに小さな影が立つのを見つけた。
「……ノエマ!」
プラチナの髪が、砂の風に
フワっと舞い上がった。
少女はまるで、砂の向こうの『 神秘の楽園 』からやって来た『 妖精 』のようだった。
アルテナが駆け寄ると、
ノエマはくるっと振り返った。
「あっ、アルテナ」
「あっ、アルテナ じゃねえよ!?こっちは
まじで、ぜんぶ夢だったかと思ったんだけど!?」
ノエマは驚いてきょとんと
翡翠の目を丸くしていた。
「アルテナ、ばくすいしてた。
だから、わたし、じゃましないように……」
「いや、だからって一人で行くなよ!?
砂漠はー、あれだ……」
「なんか色々いてこわいんだぞ!……とにかく。」
「ほんとに心配したんだからなっ!」
「……だめ?」
「だめに決まってんだろっ!」
ノエマはしょぼんと肩をすくめる。
「じゃあ……アルテナもいっしょについてくる?」
その一言に、アルテナはちょっとためらいつつも、胸の奥が落ち着いて穏やかになる。
「……ま、まあ。とりあえず、二人で、なら大丈夫か。……っしゃあ!そしたら気を取り直して行ってみっか。」
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午後のうちに二人の探索は自然と
別行動になった。
ノエマは「さばくのしらないばしょをもっとさがす」と言い残して探索を続行。
アルテナはいったん聖堂へと戻り、
聖堂内を調べていた。
「しかし……ここは、一体なんなんだ……」
崩れて倒れたやたらデカい柱、剥がれ落ちた壁、
ひびだらけの祭壇、割れたステンドグラスの窓には、なにかの生物をモチーフにした模様が浮かんでいた。
けど、それらは
『古すぎるくせに、残りすぎて』いた。
壁に埋まった、何かの結晶で出来た石盤には、
古代の文字と龍の紋章があった。
「……なんだ………これ?」
その瞬間、胸がチリッと焼けるように痛んだ。
『あれ……なんかおれ、どっかで……』
アルテナが石盤に触れると、
ひんやりとしていて冷たかった。
「なんか、冷たくて気持ち良いー……」
さらに埃を払うと、削って刻まれたような
文字が見えた。
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龍の神殿
------の守護者ここに記す
人類暦-----年
幾百万年の時が巡りし
この言葉を繋ぐ
---より生まれし影
闇色の海を---める唯一の者
原---の---を見通す
次なる
A-th----a N--sis ---iel
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「……は?」
アルテナの思考は停止して固まった。
「百……万……って……?」
小さな聖堂ーー
『 龍の神殿 』
の外で、ビュォオオーーーと
「ほんと、どうなってんだよ……この世界は……」
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日は傾き、『 追憶の太陽 』が沈み、
『 幻環 』だけが白紫色を強めていた頃ーー
ノエマが『 龍の神殿 』に帰ってきた。
「アルテナ。ごはん、いっしょにたべよ?」
「あーノエマおかえり!腹へっ……って、あれ?」
少年は気付いた。
昨日からまともになにも食べていないにもかかわらず、不思議と腹が減っていないことに。
「いや……まじで、俺の胃袋どうなってんだ……」
ノエマはその細い両腕いっぱいに『 めちゃめちゃいっぱいの缶詰 』を抱えていた。
「いっぱい、みつけた」
「うぇえっ!?いや、ちょ、待っ……」
「ノエマ!量!量!!」
錆びて膨張し、砂に埋もれていたはずの『 古代の遺物 』とも言える少女がGETしてきた謎の缶詰。
「ノエマ、こんなのどこで……」
「あっちのさばくのおかのとこ。
ほってたら、いっぱいあった」
「いや、いっぱいって……そんな小学生のドリルみたいな易しいレベルじゃないって!!」
するとノエマは、そんな少年の言葉には耳を貸さず、缶詰にそっと手を伸ばした。
するとーー
パァアアア………………!
と缶詰と少女の掌が淡く輝き出して
カチ、カチカチッ……!
と、みるみるうちに錆が消え、金属が光を取り戻しラベルまでもが鮮やかに復活した。
「……はぁああああああ!?」
「できたよ」
「できたよ じゃねえ!!」
「え??なんで!?どうやったの?!」
ノエマは石で謎の缶をコトンと器用に開けて、
枝で突き刺しぱくりと一口。
「ん……うーーーん……!おいひい。」
アルテナはガタガタと震える手で、恐る恐る缶詰を手に取る。
「……どんな味すんだこれ……」
落ちていた枝ですくって一口。
「……!なにこれ、超うまい!!!」
ふたりの笑い声が、砂漠の夕暮れに
滲んで溶けていく。
そして『 龍の神殿 』の奥深くーーー
『 大昔の石盤 』がかすかに白く光り出し、誰にも知られずに永遠の眠りから目覚めようとしていた。
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夜に二人はベッドへと戻っていた。
ぶち壊された『 二段ベッド・改 』を見て、朝の出来事を思い返し冷や汗をかいて立ちつくす少年。
対照的に穏やかな表情で少年に微笑みかけている少女の温度差がちょっとこわい。
ノエマはふいにアルテナの両手を掴んで、そっと自分の掌で少年の手を包んだ。
アルテナは、ノエマの手から感じる
『 温度 』にふと気が付いた。
「……今日もなんか変な日だったな」
「でも……たのしかった」
その言葉に少年は無言でうなずく。
「あしたもたんけん!」
「まじか……。でも、うん。そうだな!」
「じゃあ、今日はもう……」
「「おやすみなさい。」」
「ッ……っぷ。」
「「はははははは!……。」」
夜空の下。幻環の光が、にぎやかな笑い声を上げる二人を静かに見下ろしている。
二人は新たな明日への希望を静かに、その心へと刻みこんでいた。
二度目に迎えた夜、アルテナのなかの違和感が『 龍の神殿 』に散らばっていた『 記憶の欠片 』をよりいっそう鮮やかにきらめかせていた。
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