第4話 真夜中のロデオ

第4話 真夜中のロデオ

(Midnight Rodeo)


 「……がー……がああ……」


「んがっ!……がー……」


 少年の寝息が聖堂内に大きく響いている。

少女もまた、地面に膝を抱えて微睡まどろんでいた。


 少女はさっきまでの『 騒々しい少年 』とのやり取りを思い返して、なんだか胸がじんわりとあたたかくなっていくのを感じながら


『 あしたもがんばる 』


 そう一人意気込んで一度、少年の寝顔をみつめたあとゆっくりとその翡翠色の瞳を閉じた。


 明るくなり始めた砂漠の彼方には、もう一つの太陽が幻環アニュラスと重なろうと空に昇るところだったーーー



♦︎♦︎♦︎ ♦︎♦︎♦︎ ♦︎♦︎♦︎


 砂漠の夜は、魔法のヴェールに包まれたようで、辺り一面を静けさで覆っていた。


 風も鳴かず、星も瞬かず。ただ、冷たく乾いた空気がノエマとアルテナを抱きかかえ見守っているようだった。


 朽ち果てた聖堂の天蓋に空いた巨大な穴からは、幻環の白紫光はくしこうが差し、その下には散らばった記憶の欠片が砂に混ざり、淡く輝いていた。


♦︎♦︎♦︎ ♦︎♦︎♦︎ ♦︎♦︎♦︎


 「……えっと、ノエマ。さっそく質問なんだけどさ。」


「さっき、待っててって言ってたのってもしかして……」


「ベッド?ってこれ、一個しかないんだけど……」


 アルテナは、半壊した木箱を積んでボロ布をかぶせて作られたであろう『 それっぽい寝床 』を指差して言った。


 ノエマはきょとんとした顔で首をかしげる。


「アルテナは、ゆかでねるの?」


「え?いやいやいやっ!ノエマ!ぜってー他にも布団とかなきゃさむいだろ!?」


「ほらっおれのほうがたえれるし!だからおれ、床でいいよ全然っ!」



「だめ、ぜったい」


「は?」


 学校の体育館で聞かされたような台詞せりふだったが、アルテナはなぜか少女の『 ぜったい 』の圧を異様な程に感じた。


「アルテナもいっしょにやすまないとだめ。ぶったおれる」


「たおれねーよ!?おれそんな虚弱体質に見える!?」


「みえる」


「ですよねー……って、みえんのかよ!!!」


 ノエマはあくまでも淡々と続けた。


「なら……にだんにする?」


 そう言って少女は『 それっぽい寝床 』にさらに魔改造をほどこそうと、木箱をさらに積み上げようとしてそれがそばにいた少年と接触しーー


「むり!!木箱だぞ!?こうやって人が乗った瞬間にッーー


「ってうおおっ!!!」


 少年はよろめき


 バキィイイッ!!と、半壊した木箱の山が自重で崩れ、アルテナが盛大に手作り感しかないベッドにダイブ。自ら木箱クラッシュの餌食になった。


「のわぁああああ!言ったよな!?おれいま言ったよな!?むりだって!!」


 ノエマは崩れた木箱の上から覗き込んでいる。


「……アルテナ、ばかみたいだよ」


「うるせーっ!」


 そのあと二人は笑い合い、時にはモメながらも夜通し木箱を組み直してどうにか『 二段ベッド・改( 超不安定 ) 』を完成させたのであった。



上段:ノエマ


下段:アルテナ



 少女がよじよじとベッド上段に上がりながら

笑った。


「……ちょっと、たのしい」


「いや、おれはかるくしぬかと思ったんですけど……?」


「でも、たのしい」


 その言葉に、少年はなぜだか胸が熱くなって

泣きそうになった。



♦︎♦︎ ♦︎♦︎♦︎ ♦︎



「ねむれそう?」


「……ん?あ、うん。今日はおきてからずっと

歩きっぱなしでさ。つかれたからぐっすりだよ。」


 そう言ってアルテナは大きな欠伸をした。


「なんていうんだっけ、こういうとき」


 ノエマからそんな問いをなげられた

アルテナは得意気に


「おやすみなさい。って、いうんだよ。」


 と、表情も見えないノエマに向かって

穏やかにそう答えた。



「おや……すみなさい?」


「くぎるとこなんか絶妙にちがうけど、

まあ。そんなとこ。」


「わかった」


「アルテナ、おやすみなさい。」


 アルテナは疲労ですでに眠っていた。


 長い砂漠の一日目。


 そして初めての出会いの緊張と興奮が、身体中からだじゅうを包んで。


 なぜだかあたたかいものが、少年の心をいっぱいにみたしていた。



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