第7話 勇者後方支援隊

 双子と言葉による攻防をしていたクロムにむかって、


「クロムさん! こっちが掘りやすいッスよ」


 少し離れて穴を掘っていたジークが、嬉しそうな表情と大きな声で話しかけてきた。


「ほら! なんかもう耕されてるみたいに掘れます!」


 そう言いながら手本を見せるように掘り進めるジークは、ちょっとした嬉しさにより、だからこそ大事なことを失念していた。

 ゼイムスの手記の第一巻87ページに記載されていたことを。


「待て!」


 クロムは声をあげるが、ときすでに遅い。


 ズゾォオオォオオオ――!


「長さ2メートル20センチ! 地中に隠れているところ含めると3メートル40センチと推定!」

「太さ1メートル50センチ」

 

 エミルとミミルが咄嗟にモンスターのサイズを計る。

 土のなかから出てきたのは大蛇とも呼べるようなサイズをしたムカデ型のモンスター『アシドロプレウラ』であった。

 ムカデというのは肉食であり、しかも嗅覚がよい。

 埋めようとしているモンスターの死肉につられてやってきた。

 そんなムカデからすると、支援隊の面々は肉を奪い合うライバルに見えたのだろう。

 無数の脚が殺意をもって蠢いてる。

 先にオマエらを食ってやろうか、と言わんばかりに。


「ひっ」


 ジークは巨大ムカデに食われる自分の姿が脳裏をよぎる。


「右に飛べ!」


 クロムの叫び声にジークはなんとか反応し、体を右に動かすが――


「うぁあゃあああ゛」


 間に合わず、左腕の肉を大きく噛みちぎられてしまった。

 とはいえクロムの声がなかったら、腕ごともっていかれていただろう。

 ジークはうまれてはじめて生きるか死ぬかの経験をし、痛みと恐怖で震えだしている。


「やっと出番! わたしたちに任せて~。いくよラミル」

「おーけーエミル」


 測量士が所属するのは『守備隊』。

 フィールドやダンジョンの地図作りなどは、戦闘を伴うことがある。

 そのため支援隊にいる測量士である2人は、攻撃魔法を使うことができる


 エミルとミミルは詠唱を始めるが――


 クロムは知っていた、このモンスターの厄介なところを。

 モンスターは口をあけた刹那、クロムは咄嗟に


「うぉりゃああああ」


 エミルとラミルに飛びかかった。


「ふえ?」

「ちょ、なになに!」


 左腕にエミルを右腕にラミルを抱え、倒れ込む。


「くさい! わきがオスくさい~!」

「ワキガじゃねえ!」

「クラクラする」


 オスくさいかどうかはおいておき、さっきまでスコップを持って全力で穴を掘っていたのだから、汗くさいのは認める。

 胸の発育とおマセな性格でありながら、双子はまだまだ14歳で男というのを知らず、


「なにこれ? フェロモン……」

「強烈すぎ……」


 頬を赤らめていた。魔力を含めた肉体的に相性のよい男の濃厚な匂いを、初めて知った。

クロムは双子の呟きに反応する暇などなく、次の瞬間、


 ギギギィオオオオ!


 液体の音とは思えない強烈な炸裂音が鳴り響いた。

 モンスターは口から強烈な体液を、エミルとメメルが元いた場所に放ってきた。

 状況を理解した双子は、クロムの抱えられた胸元で


「「ありがと……」」

 

 と声を揃えていう。


「いや」


 これくらい当然、という意味の「いや」である。

 手短に返答したのは理由がある。


(さて、次はどうする?)


 急いでクロムたちは立ち上がる。

 アシドロプレウアは巨体のわりに動きが早く攻撃頻度も高い。

 クロムからすると1対1ならなんてことない相手だが、この次にアシドロプレウラがクロムや双子の3人を狙うのか、負傷したジークを狙うのかで対応が変わる。


 直後、クロムは判断する必要がなくなった。


 ――――ヒュン

 

一閃。


 それは突然に起こった。

 ムカデの首が、ボトりと落ちる。

 瞬殺とは、まさにこのこと。


 ムカデがいた場所の後ろから一人の少女が歩いてくる。

 気高そうな金髪、誇り高き蒼き瞳。

 さながら、光り輝く一陣の風のような美しさだ。

 存在するだけで、輝いているといっていい。

 まるで今しがた地上へ降り立ってきた特別な存在のようである。


 しかし彼女の声は、神々しかったり凛々しかったりせず、少女の愛らしさが強く残っていた。

 

「全員無事?」


 後方支援隊ゼラジリアス、その組織が仕える人物――


「リーシェル……」


 勇者リーシェル。


 王都ブランデジールから出発した、新たな勇者。

 そしてクロムにとっては自分がゼイムスであることを、もっとも知られたくはない子。

    

 クロムは8年前、命をかけて守るべき先代勇者ララミアに、むしろ守られ生かされてしまった。

 情けなさと悔しさが強迫観念のように日常を蝕み、自分の人生の意味とはなんだったのかと、黒い感情が体のなかを暴れまわる。

 ゼイムスという名前と人生を葬っても、痛みはおさまらない。


 そんな絶望の果てにいた彼が、勇者後方支援隊に参加した理由はただ一つ。


 ――今度こそ勇者を守る。命にかえても。

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