第4話 モンスターの死体ってどうしてるの? 放置プレイ?

 転生前のクロムがゲームをしていて思ったことの一つに、こんなことがある。


「倒したモンスターって、その後どうなってんだろ? このゲームみたくス~って消えてくわけないよな。死体がずっと転がってるのか? 腐らない?」


 この疑問の答えが、さきほどクロムが呼ばれた理由である。

 つまり、モンスターの死体処理だ。


 クロムは両腕に持ったスコップに力をこめ、ひたすら穴を掘る。

 その隣では、明るい茶色の髪をして快活そうな15歳くらいの少年兵ジークが、同じく穴を掘っている。


「いや~ありがたいッス。手伝ってもらっちゃって」

「いいや、なんでも言ってくれ。それが俺の役目だ」


 死体を放置しておけば、もちろん腐る。

 腐敗した肉体というのは、人体に限らずウジが湧くし、悪臭が漂う。

 腐敗を防ぐため炎魔法で骨になるまで焼き尽くすことも可能といえば可能だが、葬式の火葬を思い出してもらうとわかる通り、強火で時間をかける必要がある。

 巨大なモンスターともなれば、人間の火葬より何倍も大変だ。魔力の消費も激しい。

 そのため魔力の温存や時間コストを踏まえ、モンスターの死体は穴を掘って埋めるのがセオリーとなっている。


 もちろん、死体を放置するときもある。

 街が遠い森や砂漠なら、そこで腐っても問題ない。

 支援隊が移動の最中だったら、放置しておいただろう。

 しかし今夜は、ここで野営をすることになっている。

 そんなところで死体を放置すると、悪臭がするだけでは済まされず、より大きな危険が迫る可能性がある。

 モンスターにも当然、生態系というものがある。

 血肉の匂いにひかれたハイエナのように、さらに強いモンスターがやってくる。

 モンスターを倒したことで更に強いモンスターをおびき寄せてしまうなんて、ゲームならクソ仕様である。


 無駄な戦闘で勇者たちを消耗させるわけにはいかない。

 そのため迅速に穴を掘って匂いを断つのは、支援隊の重要な仕事だ。


 ふたりは穴掘りで少し汗ばみながら、会話を続ける。


「それじゃお言葉に甘えて、これからも死体処理とか色々と頼んじゃいますね! 相談役!」

「まかせろ! って、俺は雑用兼相談役だ」


 と、これがクロムの役職。

 

 まず後方支援隊は、大きくわけて2つの部隊に分類される。

 それは『守護隊』、と『調達管理隊』。

 ざっくり2部隊の特徴をいうなら、戦闘を伴うか、伴わないか。

 前者は主に、支援隊の警護、休息中の勇者たちの守備、監視、斥候、森での食料探しなど。

 後者は家事の延長線上が多く、炊事や洗濯。またお金やアイテム管理など。


 いくつか班分けをされているといっても、サバイバルという状況下で班の垣根を越えて仕事をすることは多い。

 簡単にいうと、食料が尽きそうになったら普段より大人数で探す、ということだ。


 なお守備隊と調達管理隊の枠組みに属さないのは、

 統括する責任者でもある隊長代理のヒエンカや、雑用兼相談役のクロムのみ。


「クロムさんって、なんか副隊長……じゃなかった、隊長代理と仲がいいっすね」

「ん? そうか?」


 ヒエンカが副隊長から隊長代理になったのは、王都から出発する3日前。

 そのため隊員たちは、まだ癖で「副隊長」と呼んでしまうことも多い。


「あんな親身で優しそうに話してる隊長代理、初めて見ましたよ」


 ヒエンカはできるだけ想いを隠しており、他の者との差は存在しているのだが


(あれで親身で優しそうなのか……他の隊員には、さぞヒエンカは恐ろしい存在として映ってるんだろうな)


 クロムは気がつくはずもない。

 こんな会話をしながら、クロムとジークは穴をしばらく掘り進める。


「あっ、このモンスターの角はとっておこう、半島の外の街で高く売れるから」

「え? そうなんすか? 教本や『ゼイムスの手記』には載ってなかったけど」


 長い旅路で当たり前になりすぎて書き忘れたんだよ、とクロムは心のなかでツッコミながら、


「ま、相談役からのアドバイスってやつだ」


 と、軽い感じで伝えた。


「了解ッス!」


 ゲームと違い、モンスターを殺したらお金がドロップするなんてことはない。

 これは多くの工程をスキップして描いている。

 ゲームによってはお金でなく、モンスターが特定の部位をドロップする作品もあり。

 これが現実の冒険に近い。

 もちろん都合よく角とか爪とか羽とか尻尾とか骨とかだけを、落とすしてくれるなんてことはない。

 それなら、どんなに楽だろうか。


 ジークはスコップからノコギリに持ち替え、モンスターの角をゴリゴリ切り落とす作業に入る。


「うわ~硬いッスね。時間かかりそー」

「角の付け根に、節みたいなのがあるだろ? それに沿って切るんだ」


 ジークは手の動きがスムーズになり、驚きと感心の表情を浮かべながら


「クロムさん、物知りっスね。もしかしてゼイムスより冒険に詳しかったりして!」


(また俺が俺と比較されてる……!)


「はは、たまたまだよ」

「相談役って肩書の人が入隊するって最初に聞いたとき、どんな人かどきどきしたけど、物知りな人でよかったッス」


 ジークの言う通り、クロムの入隊は勇者派遣の土壇場で決まった。

 だから支援隊の出発前の合同練習には最後の1回にか参加しておらず、出発して数日しか立ってないため「謎の男」というイメージがまだまだ強い。


 クロムは、自分がゼイムスであるということは伏せている。

 だが秘密というのは、逆に人の興味をそそるもの。

 秘密にされると、どうしても知りたくなってしまう。

 好奇心旺盛な年頃なら、なおさらであり――


「わぁ♪ 汗くさぁい、オスくさぁ~い♡」


 いつの間にかクロムの近くに14歳くらいの女の子が、ニヤニヤしながらしゃがんでいた。

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