第2話 黒髪隊長(17)が無防備すぎる
今は魔王討伐にむけての遠征が始まったばかり。
ヒエンカは内なる想いを、できるだけ伏せている。
だから『ゼイムスの手記』を読んでほしいと注意した声は、意図的に冷たくしようとしていた。
「いや、活字は苦手でさ」
「小さな嘘はつかないことね。それとも冗談のつもり?」
クロムはヒエンカの声が冷たいのはわかったが、表情はうまく読み取れなかった。
それはヒエンカが表情を装っていたり、木漏れ日の眩しさで顔が見えにくかったりするだけではない。
見上げるクロムの視線とヒエンカの間に、あまりにも大きな障害物があった。
それはヒエンカ自身の肉体、あまりにも大きく育ってしまった2つの胸である。
(しかしよぉ……)
さっきまで訓練していたのだろうか、赤みの帯びた白い肌が輝いおり、汗ばんだ下乳があらわになっている。
胸の下の曲線から、汗がしたたり落ちた。
ヒエンカは17歳にして隊長代理を任されるだけあり実力はたしかだが、しかしどうにも男の視線に対しては無防備なところがある。
(本人の尊厳のためにも……)
17歳の女の子からすると、事故とはいえ胸を見られるのは恥ずかしいだろう。
だからクロムはヒエンカから視線をそらしたが、
「私は真面目に話しているの、こっち見て」
注意されてしまった。
クロムはぎこちない動作で向き直し、ヒエンカの目を見る。視線が下に、下乳にいかないように努めながら。
「クロムは読書が好きそうに見えるけれど」
「ま、昔はな」
転生前は、引きこもっていたとき、色々と読み漁っていた時期がある。
サイエンスとか戦争とかの本や、あとはラノベやゲームシナリオを読んだりしていた。
クロムが元いた世界で書かれた物語なら、ヒエンカは黒いセーラー服と日本刀でも持っていそうな風貌である。
だが、ここで彼女が着ているのは、騎士の鎧だった。しかも特注品。
これは隊長代理の役職だから特別というわけではなく、肉体の事情。
通常サイズの鎧では、彼女の胸が潰されてしまう。
いや、胸の力で鎧が押し戻されるといっていい。
胸の張りで鎧がふっとんだという話もあるそうだ。
ヒエンカは実りある体ゆえに、ほとんどの防具が「装備できません」。
ゲームなら同じ職業、騎士なら騎士で同じ防具を使い回せるが、ヒエンカの肉体は特注品じゃないと収まりきらない。
ヒエンカが今着ている鎧は、胸部の上部と下部が空いている。
つまり上からは谷間が見えるし、座っているクロムの視線からでは下乳が見える。
さながら日本の隣国が制作したゲームキャラの衣装みたいだ。
こんな露出があるのは、旅は長距離を歩くために軽量化が必要だったから。
鎧職人の苦労がうかがえる。
(……だからって、見えすぎなんだよなぁ)
視線が下がらないように、クロムは相変わらず必死だった。
「なあ、本当に読まないとダメか?」
そういったクロムはズボンに穴が空いていて、髪もボサボサ。
三十路であり、ヒエンカより10歳以上は年上ではあるが、
「ええ、ダメ。私たちには必読と決まっているから」
ピシっと注意されてしまった。
17歳のクール美少女の上司から注意されるのは、一部の性癖の人には、ご褒美と言えるかもしれない。
「ねえ、クロム」
ヒエンカは身をかがめ、クロムに顔を近づけた。
これで下乳は見えなくなったが、今度は谷間が見える。
白い肌は透明感があるにも関わらず、一方で胸の膨らみは存在感があふれんばかりであった。
クロムは引続き、ヒエンカの尊厳のためにも視線が下に落ちないように気を引き締める。
「旅は、もう始まっているの。クロムは急な参加だから出発前に読めなかったのは仕方ない。けれど、絶対に読んでおいて」
続けて、クロムやヒエンカが属する部隊の名前を告げる。
「それが私達、『勇者後方支援隊ゼラジリアス』のルールよ」
後方支援隊、それがクロムの所属する部隊。
脚光を浴びる勇者たちの冒険を影で支える、クセモノのツワモノたちである。
クロムは、乳ではなくヒエンカの視線をしっかり見据えながら返事をした。
「ああ」
ヒエンカは、クロムが緊張感を持って返事をしてくれたので、その言葉を心から信じた。
相手が緊張している理由が、自分の胸が無防備だからとも知らずに。
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