第23話
総括 ― 影が歩んだ天下の裏側
本作は、戦国という乱世を「影」の立場から描いた物語である。
天下を望む者は数多く、勝者の名は史に刻まれ、敗者は消え去る。しかし、その名も残らぬ影たちがいなければ、天下の動きはほんの一寸たりとも動かなかった。
主人公である“私”は、剣をもって影として生き、羽柴藤吉郎――のちの豊臣秀吉に拾われ、「お前」と呼ばれることで初めて世界と繋がった。
秀吉の覇道の裏側で、敵を討ち、味方を守り、密命を果たし、時に裏切りと嘘の狭間で心を擦り減らしながら、ただひたすら主を支え続けた。
だが、天下は安定しない。
光があれば影があり、栄華の裏には必ず崩壊の影が忍び寄る。
秀吉の死後、豊臣と徳川の間には大きな渦が巻き起こり、かつて主と仰いだ人々の記憶に縋りながらも、主人公は新たな影に身を沈め、大阪冬の陣・夏の陣へと身を投じる。
最後は、燃え上がる天王寺口を経て、大坂落城の混乱の中、自らの使命をすべて果たし、忠輝を逃がしたのち、静かに風へと還っていった。
この物語は、武将の栄光ではなく、名もなき影の祈りと願いを描いた。
人に知られず、歴史にも刻まれず――それでも、誰かのために生きた者の生を、静かに顕すための叙事詩である。
刀の男 阪本 誠次 @kawaguchiyutaka
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