第5話 女神の崇め方

初めて妊娠の事を知ってから半年程は経った。 もちろん辛かったし、正直羨ましかった。 何が1番辛いかって、本当は心の底から喜んで祝福すべき事を歪んだ歪な考えでしか捉えられなかったから。そんな自分が余計に嫌いになったし、僕は人の幸福を喜べない最低な奴だって頭の中でずっと唱えてたよ。 それに羨ましかったってのは、もし僕が彼女と 一緒に彼女の国へ行ったら?今頃彼女の横で彼女を支えてるのは僕だった、その未来が1mmでも合ったのが辛かったし、それを認めるのも辛かった。


そして彼女を責める代わりに崇めて彼女の行動を全て肯定し始めた。 どんな感じかって? 例えば、“彼女はこんな弱い僕でも愛してくれた”とか”彼女が僕との関係をはっきり終わらせないのは、僕が彼女の事を愛してるのを知ってて僕が傷つくのを恐れたから”とかね 2つめに至ってはもう最悪な考え方、少し考えれば僕の事なんてどうでもいいからって簡単に分かる。 でもそんなことはできない。 それに”こんな酷い仕打ちをされてもまだ彼女を愛してる僕は良い奴に違いない”って考えは根底には絶対あった。認めたくないけど認めざるを得ない。


誰にも相談できないからこの考え方がおかしいって気が付かなかった、相手が何をしてきたとしても信じて耐え続けるのが、愛だって信じてたし、信じてたかった。 だってその考え方自体は美しい、でしょ?


僕の1日の頭の中は、朝起きてから寝るまで考えるのは彼女の事 、“あーあ、起きた時隣に彼女が居れば良いのにな”とか、“どうして彼女は僕を捨てたの?” “捨てた訳じゃない、僕が勝手にそう思ってるだけ” “彼女は僕で遊んでたの?” “そんな訳ないし、そんな馬鹿な事も考えるな” って一生自問自答のループ 。

ちょっと彼女を責める、直ぐにそれを猛烈に否定・批判するの繰り返し、 よく飽きなかったなって思うよ。


この時の僕は夜が眠れなかった、眠ろうとすると凄い勢いで心臓が動いて、妊娠を知った時の嫌な感覚が蘇って寝れなかったんだよね。 でもそれも自分が弱いから、そんな事で動揺するんだって言い聞かせて無理やり寝たよ。


何があっても彼女を悪く言わないし、悪く思わない、思ったとしたら即否定して自分を責める。 崇め方としてはバッチリ、生き方としては最悪だね。

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