第5話

 ——買い物を終え。

 安栖あずみ藤咲ふじさきは、ふたり並んで【Pity Frankly】までの道を歩く。


藤咲ふじさき、近頃は、その……学校のほうはどう?」

「どうって……具体的に何が?」

「どうってほら、この前言ってたじゃん。同じ授業とってる男子で、やけに藤咲ふじさきに話しかけてくるのがいるとかいないとか。……あれから進展はなかったの?」


 妙にそわそわした感じでそんなことを訊いてくる安栖あずみと。

 ……どこかその質問を撥ね除けるように、急につれない態度になる藤咲ふじさきだった。


 以前藤咲ふじさきは、安栖あずみに、最近になって大学で妙に頻繁に話しかけてくる同級生がいることについて相談したことがあった。


 授業では近くの席に座ってこようとするし、食事に誘われることもしばしばあったし(もちろんそれらは全部断っていた)、空きコマ等に大学構内で顔を合わせれば何かと声をかけてくる同級生の男子。

 相談内容としては「どうしたらその男の子に嫌な気をさせず無難にやり過ごせるだろうか」的なものであったが、安栖あずみはそれをどうも恋愛話として受け取っていたようで……。


 藤咲ふじさきは、つんとした口振りで答えた。


「別に? 一昨日、なんか『付き合ってほしい』とか言ってきたけど、断った」

「断った? ええ? 写真見せたもらったけど、結構イケメンだったじゃん」


 相談した際に、すでにその同級生についてある程度の情報は共有していた。


 彼の所属している学部やサークル。

 藤咲ふじさき周辺の友人や知り合いが普段「彼」について抱いている印象。


 そして、彼の容姿について。

 昨年の夏に「同回生でごはん食べようよ」となって開かれた食事会で撮った集合写真。長身で垢抜けた爽やかイケメンが笑顔でピースしている姿が写っていた。


「別に。イケメンとか関係ないし」

「関係ない? あれ、藤咲ふじさきって外見より中身のほうが大事なタイプだっけ?」


 違う。

 この人とずっとそばにいたいな、寄り添っていきたいなと思える人がタイプだ。

 藤咲ふじさきが想い募らせていることと、安栖あずみのしたい話がなかなかに噛み合わない。


 それゆえに自分の方ばかりが苦しくなる……というか、「そろそろ気付いてよこちとら高二の頃からあんたのことが……」的な感じのアレで、頭の中がごちゃごちゃになってしまう。


 ごちゃごちゃになって、ぐちゃぐちゃと悩んでいるうちに、そして。

 ……この手の話題から、どうしても逃げたくなってしまう自分を見つけてしまう。


 逃げたところで別に、安栖あずみへ向ける特別な想いが実るわけでもないのに。

 逃避とはむしろ、藤咲ふじさきが抱く理想とは反対側へ向かう行動といえるのに。


 藤咲ふじさきはぎりっと歯を食いしばった後、


「……別にどっちだっていいでしょ。告られたけど、わたしにはその男の子とは付き合う気がこれっぽっちもなかった……ただ、それだけの話」


 はい、この話おしまい、と藤咲ふじさきは無理やり話を区切るが。

 安栖あずみは、


「えー、もっと色々聞きたいんだけど。どんな感じで告られたの、とかさ」


 ポエミーな文句で口説き落とそうとした感じ?

 それとも、どこか飲みに誘われてお酒の勢いに任せて、みたいな感じ?


 ……軽いノリで、話題をノンデリにも深掘りしようとしてくる。


「デートとか誘われたりしたんじゃないのー? ほれほれー」

「うるさい。話はもう終わりってさっき言ったじゃん」

「大学でも人気あったんでしょ、その男の子。どこがいけなかったのさー」

「やめてって。それ以上突っ込まれても何も答えないからね」

「成績も性格も良くてイケメンで……藤咲ふじさきはこれ以上男の子に何を求めるのか」

「何でそんな性悪設定になってるのよ、わたし。怒るよ」


 結局何も答えてくれなかったので、ちぇー、とむくれる安栖あずみであった。

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