第4話

 ——カゴを漁る安栖あずみの手つきは俊敏であった。


 先程チャットで話した通り今日は野菜が安売りされているらしい——キャベツ、カブ、椎茸、大根、大玉のトマト、ほうれん草、玉ねぎ、豆苗、もやし。

 その他にも、半額シールの貼られた豚ひき肉や鶏モモ肉、あらびきポーク。カレー粉に、トマト缶。豆腐、納豆、流水麺——といった雑多な、けれどできるだけ出費を抑えたいという意志を感じる食品の数々がカゴ内にはあった。交渉通り藤咲ふじさきは人参に手をかけてなどいなかった。


 検品を終えると、安栖あずみは分かりやすくつやつやとした笑顔になる。


「よーし、にんじん入ってなかった。異常なし。交渉は妥結ね」


 呑気なことを言う安栖あずみに対し、藤咲ふじさきは不満げな顔をつくる。


「わざわざカゴの中確認するとか、わたしってもしや安栖あずみに信用されてない感じ?」

「そぉーんなことないですのよ、藤咲ふじさきちゃん。一応って言ったじゃん、一応って」

「信用があれば、その『一応』が発生する余地なんて一切ないのですがね」


 むーっとむくれて圧をかける藤咲ふじさき

 安栖あずみはたじろぎつつも苦笑しながら、


「……い、いやほら、石橋は叩いて渡れといいますし、転ばぬ先のということわざもこの世には存在するわけで、用心に越したことはないわけで」

「厳密にいえば、杖は英語で『Stick』じゃなくて『Cane』だけどね」

「別にそんなマジレスしなくてもよくないっ⁉」


 安栖あずみの言い訳がましいジョークは、肝心なところで藤咲ふじさきにツッコまれて終わった。

 流石は大学生。英語もそれなりにちゃんと勉強している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る