第2話
街をやや遠くに望める川沿いを歩きながら、
音楽を再生させながら沈む夕日に向かって遊歩道を歩いていると、今日一日の労働で蓄積した疲労が何となく少し紛れるような気がして、
「むー……、今はこの曲の気分じゃない……」
画面を睨み、今朝つくったばかりの再生リストにぶうぶう言いながらスクロールしていると——ピロリン、とチャットアプリの通知が鳴る。
開くと、「
『がっこうおわってスーパー行ってみたら』
『野菜めっちゃやすい』
『きょうは鍋』
野菜、というワードに「うっ……」となりながらも、
「鍋了解」「にんじんは入れないでね」
『だめ』『二十歳になってまで好き嫌いしないの』
「カロテンはにんじんの代わりにカボチャで摂取するし」「カリウムはバナナで取れる」「食物繊維はゴボウで、その他のビタミンは緑黄色野菜でカバーするから」
『…………』『なんでそんなに人参の成分に詳しいの?』
まったくである。
だが呆れることに、
グーグル先生を参照していると、人参の成分にはサポニンというものもあることを知った。その栄養素は大豆やお茶に多く含まれているという新情報も
が、
『でもダメなものはダメ』
古から伝わる伝家の宝刀が返ってきた。強い。
ポチッと通話ボタンをタップし、通話越しの説得を試みる。
文面より口頭で伝えた方が効果的であると、このときの
「も、もしもしっ」
『もしもし。あんたがなんて言い訳しようが、絶対に鍋に人参は入れるよ』
やばい、なんかもう色々くじけそう。
とはなりつつも、いやしかし何としてもにんじんだけは避けなくてはならない。
「今日ね、帰りにケーキでも買って帰ろうと思うんだけど、
『…………』
僅かに通話口で押し黙る感触。
ピリッと緊迫した空気が電波を伝って、ふたりだけの世界を包み込む。
——
ケーキはもちろん、エクレア、ドーナツ、アイスクリーム——和でも洋でも駄でも甘い物を前にすれば、瞳にぽわぽわとハートマークを浮かべてしまうレベルである。
それを交渉材料に持ち出し、
「この前
『……………………』
「そういえばさっき駅前でクレープの出店も見かけたなあ~、ナッツとキャラメルいっぱいの、めちゃくちゃボリューミーで美味しそうなやつだったなあ~」
『…………………………………………』
「あ、ちょうどいいタイミングで思い出した。今日昼休みに
『……………………………………………………………………………………』
めちゃくちゃ長考するじゃん。どんだけ甘い物に弱いのよ、この子は。
……果たして長考の末に、
『いいでしょう、今日のところは負けてあげる。人参は買わないことにします』
「よっしゃ!」
その言葉を待っていた、とばかりにガッツポーズをする
これが今晩鍋に人参が入らないことを知って大喜びする、二十歳児の姿である。
『そ、その代わりっ、ちゃんと約束通りスイーツ買ってくるのよ』
「あたぼうよ。んで、どこのお店のブツをご所望で?」
『…………っ』
訊ねると、再び
『……【ピーティー…………の、…………なしミル………ユ…』
恥ずかしさを押し殺しつつ、
くふっと笑いながら、
「【Pity Frankly】の<底なしミルフィーユ>ね。分かった」
それから、
「てか
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