第2話
空襲が起きてから一週間後、涙も涸れ果て、空腹も覚えなくなった。
家族も、友人も、みんなみんな、炎に焼かれてしまった。
生き延びた人々は、隣町へ非難したらしいが、それも、何か意味あることに思えなかった。
だから、自分の好きなところに行こうと思った。
そこで思いついたのが、町の外れだ。
そこから見る夕日は、一番のお気に入りだった。
砂漠の向こうに夕日が落ち、その瞬間、赤とも青とも紫とも、何とも言えない美しい色に、世界が染まる。
どうせなら、そのお気に入りの景色を見ながら死のうと思った。
ただ、その日はあいにくの曇りだった。
がっかりしながら膝を抱えて伏せっていると、足音がした。
「よお、嬢ちゃん、生きてっか?」
顔を上げると、壮年の男性が立っていた。
「生きてるけど、おじさん誰?」
「お、おじさん? おれはこれでも40代なんだけど……」
髭をボサボサに生やした顔が、必死で若さをアピールしようとしている。
「いや、40代っておじさんじゃないの?」
「え……ああ、はい、そうっすね、すんません……」
男は肩を落とした。
その様子が滑稽で、つい、クスリと笑ってしまった。
すると、
「お、笑ったな。そうさ。子どもは笑ってなきゃな」
そう言って、手を伸ばしてきた。
「俺はゴドーという。見ての通りの軍人だ」
伸ばされた手をつかんで握手した。
ゴドーと名乗った男は、確かに迷彩服に銃器を肩に掛けて、軍人ですと言わんばかりの格好をしていた。ただ、例のボサボサの髭面が、あまり軍人っぽくないな、とも思った。
ゴドーはこの町近くのベースキャンプにいるらしい。
その時は分からなかったが、敵国の軍人だった。
ゴドーはその日から、毎日やってきた。
自分も、その町から出ることをしなかった。廃屋でも何でも利用して、何とか生き延びてきた。
こんなところに来ていていいの? と聞いたら、今戦争は小康状態で、自分達の隊は指示待ちの待機状態なのだそうだ。実はゴドーは、ある部隊の隊長だという。
偉いんだね、というと、無能だけどな、と悲しそうな顔をした。部下を、たくさん死なせてしまったのだという。
食事は、ゴドーが分けてくれた。
曰く、こんなまずい携帯食なら掃いて捨てるほどある、らしい。
自分も、確かにまずいな、と思っていたら、つい言葉に出していた。
そうだろそうだろ、とゴドーは大笑いした。
ゴドーは意外と物知りだった。
天体の巡り方とか、地球の仕組みとか、見たことのない生物の話なんかもしてくれた。
この世界には、まだ見たことのない景色や想像もできない不可思議な生物が存在する。
俺はそれを全部見てみたかった、とゴドーは言う。
あきらめたの? と恐る恐る聞くと、そうだな……と仰向けに寝転び、
「いつか、戦争が終わって、やることもなくなったら、世界中を回って見てもいいかもな」
自分は、いいねそれ、と応えた。いつか、戦争がなくなったら、きっと、いろんな所に行けるんだろうな。
この町は好きだけど、もっといろんなものも見てみたい、そんなふうにも思う。
「そうしたら、私も連れてってよ。どうせずっとここにいるから」
その言葉に、ゴドーは少し戸惑いながら聞いた。
「お前さん、家族は?」
「いない。一週間前の空襲で死んじゃった」
「はあ、そりゃ……」
ゴドーは、そこから言葉が続かなかった。
それから、話が途切れたので、こちらから尋ねた。
「おっさん、家族は?」
「いない。
「はあ、そりゃ……」
自分も言葉が続かなかった。
また、しばらく沈黙が襲った。遠くで飛行機の音が聞こえて、でもすぐに消えていった。
「なあ、これは、おれが無事に戻ってきたら、という前提での話だが……」
ゴドーが顔を赤らめて、話だす。
「もし……もしこの戦争が終わって、俺が無事だったら……」
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