第3話

「『その時は、親子になろう』って」


眠気にまどろむように、恍惚の表情で、少女は語った。

だが、すぐに口調を変えて、


「おっかしいよね~、だって出会って数日しかたってないんだよ? 実際どこの誰かも分からないんだし……でも、何でだろう。いいよ、て言っちゃったんだ」


また、顔を膝にうずめる。

久しぶりにたくさん話したのだろう。少し息も上がっていた。


「約束だから、ここを離れるわけにもいかなくてね。こうして待ってるの。その人が来たら、何て呼ぼうか考えながら」


少女は、また顔を明るくした。


「ここはやっぱり『お父さん』かなとも思うんだけど、でも、あのヒゲ面は『オヤジ』っていう感じでもあるんだよねぇ。あ、もちろん、『パパ』なんて論外。絶対そんな顔じゃないから」


やっぱり「お父さん」かな、とつぶやく少女の顔は、今までで一番幸せそうであった。


男は、しかし、そこに水を差すと分かっていながらも、言わざるをえない。


「あの、さ……言っちゃ悪いけど、そりゃ、おめでたい話ってやつだよ。だって、戦争が終わって、もう一ヶ月も経ってるんだぜ。それでも帰ってこないってことは、その人は……」

「うん、分かってる。そろそろ潮時かなぁ、て、私も思ってるんだけど……」


でも、待たなきゃ、とつぶやいて、少女は目を閉じた。


男は何か言おうとしたが、しかし、その小さな後ろ姿に声を掛けることができず、また来るよ、とだけ言って、その場を去った。

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