第3話
「『その時は、親子になろう』って」
眠気にまどろむように、恍惚の表情で、少女は語った。
だが、すぐに口調を変えて、
「おっかしいよね~、だって出会って数日しかたってないんだよ? 実際どこの誰かも分からないんだし……でも、何でだろう。いいよ、て言っちゃったんだ」
また、顔を膝にうずめる。
久しぶりにたくさん話したのだろう。少し息も上がっていた。
「約束だから、ここを離れるわけにもいかなくてね。こうして待ってるの。その人が来たら、何て呼ぼうか考えながら」
少女は、また顔を明るくした。
「ここはやっぱり『お父さん』かなとも思うんだけど、でも、あのヒゲ面は『オヤジ』っていう感じでもあるんだよねぇ。あ、もちろん、『パパ』なんて論外。絶対そんな顔じゃないから」
やっぱり「お父さん」かな、とつぶやく少女の顔は、今までで一番幸せそうであった。
男は、しかし、そこに水を差すと分かっていながらも、言わざるをえない。
「あの、さ……言っちゃ悪いけど、そりゃ、おめでたい話ってやつだよ。だって、戦争が終わって、もう一ヶ月も経ってるんだぜ。それでも帰ってこないってことは、その人は……」
「うん、分かってる。そろそろ潮時かなぁ、て、私も思ってるんだけど……」
でも、待たなきゃ、とつぶやいて、少女は目を閉じた。
男は何か言おうとしたが、しかし、その小さな後ろ姿に声を掛けることができず、また来るよ、とだけ言って、その場を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます