ゴドーを待ちながら

黒崎葦雀

第1話

ある国で戦争があった。

その国のある町は、空襲で焼け野原となっていた。

砂漠に面した町で、人口も多く、活気に満ちた町だった。一月ほど前までは。


廃墟と化した町の片隅で、一つの人影があった。

砂漠と町の接する場所で、少女が一人、膝を抱えて座っていた。目線を時々あげ、けれどすぐに伏せり、何をするでもなく、ずっとそこにいた。


ふと、足音が聞こえた。

少女は敏感にそれを感じ取り、ハッと顔を上げる。


「よお、嬢ちゃん、何やってんだ?」


何とも“軽そうな”若い男性だった。

少女は、明らかに残念そうな表情をして、また顔を伏せた。


「そうあからさまにがっかりされると、こっちも悲しくなるんだが……ああ……何、やってんだい?」


少女はこれまた明らかに面倒くさそうな表情を男に向け、


「人待ち」


とだけ言って、また顔を元通りに伏せた。


「はぁ、そりゃ……」


言いかけて、男は後の言葉が続かなかった。

どうしようかとまごまごしていると、少女がこちらを見ていることに気付いた。


「ん? どうした?」

「……何か、あの人と同じ口調だな、と思って」


男は改めて少女に向き直る。

体は痩せ細り、瞳も、輝きを失いかけている。


「なあ、もしかして、ずっとここにいるのか? 避難所には行ったか? 何か、食べてるか?」


少女は沈黙を持って答えた。

おそらく、ずっとここにいたし、避難所にも行っていないのであろう。そして食事も。


「まいったな、何か持ってくりゃよかった。ていうかさ、書き置きでもして、一旦避難所に行った方がいいんじゃねぇの? いったい誰を待ってるんだ?」


少女は顔をちょっとあげ、目線だけ男に向けた。


「父親」

「オヤジさん?」

「に、なるはずの人」

「……へえ、未確定か」

「そ。最初は私も避難所とか配給所とかに行ってたけど、来たときに迎えてあげないと、さびしいでしょ?」


律儀だね、と男は天を仰いだ。

が、再び少女の方へ向き直り、


「なあ、その話、聞かせてくれよ」


と詰め寄った。

少女は相変わらず面倒くさそうな顔をあらわにしている。


「……つまらないよ、どうせ」

「いや、つまらない話大いに結構。今の俺は時間を潰すためなら金すら払うぜ。あんまり持ってないけど」


あきれた、と小声でつぶやき、


「じゃあ、まあ……」


と、少女は語り始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る