この目で確認しないと納得しないタイプ
一気に、七海ちゃんの呼吸が荒くなる。
「……だ、だから……っ」
必死に言葉をつなごうとする声。
「さっき……ちゃんと、
私は、その反応を間近で受け止めながら、視線を外さずに答える。
「うん、言ってたわね」
手を少しずつ上へ動かしながら、私は、落ち着いた声で続ける。
「でも……私は、この目で確認しないと、納得しないタイプなの」
七海ちゃんの
「……せ、せめて……」
ためらいがちに、
「……明かりを……消して、ほしいです……」
私は、ほんの一瞬だけ考えるふりをしてから、首をかしげる。
「暗くしたら……よく見えないでしょ?」
その返しに、七海ちゃんは、思わず目を伏せる。
「……で、でも……」
かすれた声で、ぽつりと。
「……もう……
その言葉に、私は、ぴたりと手の動きを止めた。
空気が、一瞬、張りつめる。
私は、七海ちゃんの表情を、ゆっくり確かめるように見つめてから、静かに言った。
「……ほんとにイヤなら」
声を低く、でもやさしく。
「私は、見てあげなくても、いいのよ?」
逃げ道を、きちんと示す。
七海ちゃんは、しばらく黙っていた。
唇をかみしめて、視線をさまよわせて。
それから――
意を決したみたいに、顔を上げた。
「……ちゃんと……見て、ください……」
その一言は、震えていたけれど、迷いはないような声だった。
私は、小さく息をはき、苦笑まじりに、つぶやく。
「最初から、そう言えば、いいのよ?」
私は、七海ちゃんの様子をもう一度だけ確かめてから、ゆっくりと手を伸ばした。
七海ちゃんが身に着けている、部屋着のワンピースの裾に、指先をかける。
一瞬、七海ちゃんの身体が、びくりと揺れたけれど――私の手を止めようとはしない。
私は、そのまま、ためらいなく裾を持ち上げる。
「……うん」
落ち着いた声で、事実だけを告げる。
「ちゃんと、履いてるわね」
七海ちゃんは、息を詰めたまま、小さくうなずくことしかできない。
顔は、もう耳まで真っ赤で、視線はどこにも定まらない。
私は、その反応を見て、ほんの一瞬だけ、口元をゆるめた。
「履いてるところを、この目でしっかり、確認できたから……」
そう言って私は、七海ちゃんの部屋着の裾を、そっと戻してあげる。
その雰囲気を感じ取ったのか、七海ちゃんの表情が、わずかにやわらぐ。
けれど私は、その部屋着の下から、ゆっくりと、七海ちゃんのショーツの腰の部分に手をかける。
「もう、これはいらないわね」
「……えっ」
私はその手を、じっくりと下へおろしていく。
七海ちゃんの呼吸が、はっきりと変わる。
「……っ」
「……ほら」
腰を浮かすようにうながすと、少しの間があった後に、七海ちゃんがわずかに動く。
そのまま、七海ちゃんの身体から離れたそれは、ふんわりとたたんでソファのわきに置いておく。
「言われたとおりにできて、えらいわよ?」
そう言いながら、私は手を、さっきも触れていた場所へ戻していく。
けれどもさっきとは違い、私と七海ちゃんとをさえぎるものは、もうない。
それでもただ、触れるか触れないか、その境目をなぞるように、ゆっくりと位置を変えていく。
声にならない、七海ちゃんの音。
背中が
「……そんなに、正直に反応しなくてもいいのに」
からかうようでいて、責める気はない声。
七海ちゃんは、必死に首を振ろうとして、でも、動けない。
「……だ、だって……」
かすれた声。
「……先輩の……手……が……とっても……」
それ以上は、言葉にならない。
私は、その様子を見て、動きを止めたまま、静かに言った。
「ね、七海ちゃん」
名前を呼ぶだけで、肩が跳ねる。
「これは……無理やりじゃない。あなたが、選んだこと」
視線を合わせて、確認する。
「わかってる?」
七海ちゃんは、少しだけ涙目になりながらも、しっかりとうなずいた。
「……はい……」
その返事に、私は小さく息をはく。
「……ほんとに」
苦笑しながら。
「身体より、気持ちのほうが、先に走っていっちゃうんだから」
そう言って、ようやく、少しだけ距離を取る。
七海ちゃんは、解放されたみたいに大きく息を吸って、それでも、身体の緊張は、まだ解けていなかった。
リビングは、相変わらず明るいまま。
洗濯機と食洗器の音が、まだ、一定のリズムを刻んでいる。
その日常の中で――
七海ちゃんの全身は、今も、はっきりと「触れられた気配」を覚えたままだった。
私は、そのまま動かずに、七海ちゃんを見つめ続ける。
触れているのは、ほんのわずか。
けれど七海ちゃんの身体は、それだけで、はっきりと
呼吸が浅く、速く。
胸が上下するたびに、力の入った肩が、かすかに震える。
視線を泳がせながら、それでも逃げようとはしない。
私のほうを見ようとして、でもはずかしさに負けるのか、また伏せてしまう。
――全身で、感じている。
私は、その反応を、ただ黙って受け止める。
指先の位置を、ほんの少しだけ変えるたびに、七海ちゃんの身体が、びくり、と跳ねる。
「……っ」
小さな声。
それすら、だんだんと、間が空いていく。
私は、心の中で数を数えるみたいに、同じことを何度か、繰り返す。
そうした七海ちゃんの変化を、最後まで見届けると、私は手を止めた。
「……うん」
「ちゃんと、戻ってきたわね」
七海ちゃんが、はっとしたように、私を見る。
その目には、まだ
「……す、すみません……」
ぽつりと、謝るような声。
私は、思わず、ため息まじりに笑ってしまった。
「謝らなくていいわ」
やさしく、でもはっきりと。
「反応するのは、悪いことじゃないでしょう?」
七海ちゃんは、少し考えてから、ゆっくり首を振る。
「はい……」
その返事は、さっきより、ずっと落ち着いていた。
「……それともやっぱり、私の手なんかじゃあ、満足できない?」
「そ、そんな……!」
七海ちゃんはまた、あわてて私から目をそらしてしまう。
「……ずっと、見てた、じゃないですか」
私がわずかに笑って「ここまでに、しておく?」と告げると、七海ちゃんの肩から、ふっと力が抜けた。
「はい」
短いけれど、納得した声。
リビングは、相変わらず明るくて。
洗濯機と食洗器は、何事もなかったみたいに、同じリズムで動いている。
その日常の音の中で――
七海ちゃんは、まだ身体に残る
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