Route:04 レベルアップ

 未知の道の職業レベルが1になってから、ロードは自分でもはっきりわかるほど、体が動かしやすくなっていた。


 足を動かすたび、腕を伸ばすたび、前よりも軽く、思った通りに体がついてくる。


(あれ……? こんなに、動けたっけ)


 走るときでも、力を入れているわけでもないのに、身体が言うことを聞いてくれる。その感覚が嬉しくて、ロードは何度も指を開いたり、足踏みをしたりして確かめていた。


 それを口にしたのは、父のガロウだった。

「最近、ずいぶん元気だな。よく動くようになった」

 畑仕事の合間、汗を拭いながらそう言って、ガロウは少し不思議そうにロードを見る。



 ロードは少し照れたように笑い、首をかしげた。

「うん……なんかね、体が軽いんだ。いっぱい動いても、あんまり疲れない」


「ほう?」

 ガロウは目を細め、しばらくロードの様子を眺めてから、「ああ、なるほどな」と一人で納得したようにうなずいた。

「この世界じゃ、職業レベルが上がると、体が強くなったり、魔法が使えるようになったりする。そういうものだ」


「しょくぎょう……?」


 ロードが聞き返すと、ガロウは鍬を肩に担ぎ直しながら、穏やかに続ける。

「父さんもな、農家の職業を得たとき、同じような感じがあった。土を耕す腕が前より楽に動いて、長く働いてもへこたれなくなった」


「へえ……」

 自分だけじゃないと知って、ロードの胸の奥に、ほっとした気持ちが広がる。
ガロウはそんなロードの頭に、大きな手をぽんと置いた。


「だから、変に思う必要はない。ちゃんと成長してるってことだ」


「……うん!」

 その言葉が、ロードにはとても誇らしく聞こえた。


 一方、母のサラナは、少し離れたところから二人を見ながら、優しい目で声をかけてくれた。

「職業によって、得られる力は違うのよ」


「ちがうの?」


 ロードが振り返ると、サラナは微笑みながらうなずいた。

「お母さんは園芸家だからね。作物の小さな変化に気づいたり、植え替えにちょうどいい時期が、なんとなくわかるの」


「すごい……」


「ふふ。でもね、誰にでも同じ力があるわけじゃないの」

 そう言って、サラナはロードの前にしゃがみ、目線を合わせる。

「だからね、ロード。人それぞれ、できることが違うの。あなたも、あなたなりの力を持っているのよ」


「……ぼくの、ちから」

 その言葉を反芻するように、ロードは小さくつぶやいた。
サラナはそっとロードの頭を撫でる。そのぬくもりが、胸の奥まで染み込んでくる。



 体が動かしやすくなったおかげで、ロードは父と母について、畑へ行けるようになった。
もちろん、まだ本格的なお手伝いができるわけではない。


「ぼくも、なにかしたい」

 そう言って、ロードはガロウの服の裾を引いた。


「だったら……」

 ガロウは少し考え、後日、小さな木のスコップを作ってくれた。


「これなら、ロードにも使えるだろ」


「ありがとう! だいじにする!」

 スコップを受け取ったロードは、宝物を手に入れたような顔で、畑の周りを歩き回った。

 
農道にできた水たまりに土を入れて、水が溜まりにくくしたり、
道の脇の溝に落ち葉が詰まっていれば、それをかき出して水の流れをよくしたり。

「ここ、通りにくいから……こうして……」

 小さな声でそう言いながら、ロードは真剣そのものだった。


 だが、父と母から見れば、泥遊びをしているようにしか見えない。

「ふふ……一生懸命ね」

「好きにやらせてやろう」

 そんな会話を交わしながら、二人は少し離れたところで、温かい目で見守っていた。


 ロードは、毎日少しずつでも活動を続けた。
小さい身体は疲れやすいので、木陰で休みながら、それでも「ここがきれいになった」と感じるたび、胸が嬉しくなった。



 そして――ついに、その瞬間が訪れる。胸の奥に、世界の言葉が響いた。


『レベルが上がりました』




名前:ロード
種族:人間(3歳)


職業:未知の道(レベル2)


HP:12 / 12 
MP:12 / 12


STR(筋力):3  VIT(耐久):3


AGI(敏捷):3  INT(知力):22


DEX(器用):3  LUK(幸運):16


適正属性:なし


スキル:なし


称号:なし


加護:【街道神ミチヒラキの加護:小】


貢献度:2 × 100 × 1 = 200


(コンピテンシーレベル × 活動 × 影響)



「やったぞ!!」


ロードは叫び、ガッツポーズをした。


「どうした、ロード?」

 急に叫んだことに驚いた、ガロウが尋ねた。


「なんでもないよ」

 ごまかしながらも、とびきりの笑顔で、ステータスを確認した。


 それによって、いくつかわかったことがある。

 HPとMPは、レベルが一つ上がるごとに、2ずつ増える。


 STR、VIT、AGI、INT、DEX、LUKは、レベルが一つ上がると、それぞれ1ずつ上がる。


 なかでも、ロードが強く注目したのは、貢献度の「コンピテンシーレベル」が2になったことだった。


 これは、自分の意思で農道の整備を行った結果だろう。

 【活動と影響との掛け算】

 仕組みを理解した瞬間、胸の奥が少し弾む。



 ――うまくやれば、もっと効率よく上げられる。


 そんなことを考えているロードの横で、サラナは「泥だらけね」と微笑みながら、そっと服をはたいてくれた。



 それは、ロードにとって、確かな安心と、次の一歩への励ましになっていた。

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