Route:03 ステータスの目覚め

 ロードは、あたたかな何かに包まれながら、幸せな気持ちでいた。柔らかな温度に守られ、世界そのものが心地よい毛布のように感じられる。


 

 「ずっとここにいたい」――そう思った次の瞬間、急かされるように狭い道に押し出され、胸を締めつけるような苦しさを覚える。

 世界の光が急に差し込み、肌が外気に触れ、体が震えた。次いで背中をぴしゃりと叩かれ、思わず息を吸い込むと、肺が大きく広がり、赤く染まった肌とともに、力いっぱい泣き声を上げた。



 「元気だ、元気な声だ」

 
「生まれてきてくれて……ありがとうね」


 優しい声が左右から降り注ぐ。身体はまだ小さく、目もぼんやりしているけれど、その声だけはまるで胸の奥に直接染み込むように暖かかった。


 その瞬間、意識のどこかで「新しい人生が始まった」と理解した。


 寝たり起きたりを繰り返す日々の中で、体の内側に、前世では感じたことのない力が流れているのに気づく。

 ゆっくりとした鼓動に合わせて、体の奥から淡い光の粒が流れていくような感覚。

 ――これが“魔力”なのだろう、と。

 
目を開ければ、すぐ傍らで母が微笑みかけ、細い指先で髪をそっと撫でてくれる。


 「よく眠れた? ロードは本当にいい子ね」


 父は大きな手で頬を優しくつつき、
「お前は強い子になるぞ」
とまるで未来を確信しているかのように言った。



◆



 半年が経ち、ロードはハイハイができるようになった。
部屋の中を自由に移動し、あちこちを思うままに手で触れ、扉の向こうの世界を知りたがる。家は木造の質素な農家のようだが、どこか温かみのある香りが漂っていた。

 この頃には、ようやく両親の名前も周囲の大人たちの会話から知ることができた。


 母の名はサラナ、父の名はガロウ。

 二人の声を聞くたび、その名の響きもまた胸の奥に優しく染み入ってくるようだった。

 「おっと、そっちはまだ危ないぞ」


 そんな声を背中で聞きながら、ロードは毎日少しずつ世界を広げていった。


 一年が過ぎる頃には、よちよちとだが家の中を歩き回れるようになっていた。 父が腕を広げて待つと、ロードは一歩ずつ進み、転びそうになりながらも笑って手を伸ばす。


 「歩けた、ロード、すごいぞ!」

 
母は拍手しながら顔をほころばせ、
 

 「本当に成長が早いのね」

 
と嬉しそうに抱きしめてくれた。


 三年経ち、今度は家の周りを歩いて探検するようになる。外の空気は家の中とは違ってもっと広く、風は音を連れてくるし、草は踏むたびに小さく鳴いた。


 両親に抱かれながら村のあちこちを見て回り、いつしかロードは村の全ての道を踏破していた。


 「お前は本当に歩くのが好きなんだな」


 「どこを歩いても楽しそうね、ロード。その笑顔を見ると、こっちまで元気をもらえるわ」

 
そう語りかけられるたびに、胸のどこかが温かくなった。



 その時――胸の奥に唐突な声が響いた。

 
『貢献度が100貯まり、レベル1になりました。ステータスの閲覧が可能です』
 まるで、ロードを認めたかのように。



◆



名前:ロード
種族:人間(3歳)


職業:未知の道(レベル1)



HP:10 / 10  

MP:10 / 10



STR(筋力):2  VIT(耐久):2


AGI(敏捷):2  INT(知力):21


DEX(器用):2  LUK(幸運):15



適正属性:なし


スキル:なし


称号:なし


加護:【街道神ミチヒラキの加護:小】



貢献度:1×100×1=100


(コンピテンシーレベル × 活動 × 影響)



◆



 ステータスを見られるようになったロードは、胸を躍らせた。
自分の内側が前よりも軽く、動きやすくなっている気がした。

 知力が高いのは前世の記憶があるからだろうと自然に納得できる。

 そして――幸運が高かったおかげで街道神ミチヒラキに出会えたのだ、と感謝し、胸の奥でそっと手を合わせた。



 その隣では、父ガロウが嬉しそうに頭を撫でながら、「今日もいっぱい歩いたな」と話し、母サラナが「ロードはきっと素敵な道に出会えるわ」と穏やかに微笑んでいた。




 その声は、ロードの新しい人生の最初の祝福のように感じられた。

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