Route:05 街道神よりの便り


 四歳になったロードは、一年のあいだに、職業レベルが四まで上がった。

 レベルが上がった分だけでなく、年齢が一つ増えた影響もあって、ステータスの数値は少しずつ底上げされていた。


 おかげで、身体は以前よりもずっと動かしやすい。
走っても転びにくくなり、長く歩いても息が上がりにくい。


「ロードはすごいなあ。足取りもしっかりしてきた」


 ガロウはそう言って、少し誇らしそうにうなずいた。


 けれど――
 スキルや称号に、これといった変化はなかった。


「……まだ、スキルは、使えないなあ」


 ロードはぽつりとこぼす。


「焦らなくていいのよ」


 サラナは、畑仕事の手を止めて微笑んだ。


「力ってね、必要なときに、ちゃんと形になるものだから」


「うん……」


 ロードは小さくうなずいた。



 そんなある日、村で小さな問題が起きた。

 朝になると、村の道がぼこぼこになっているのだ。
昨日、整えたはずの道が、翌朝には掘り返されている。

「まただよ……」


「これで三日連続だぞ」

 村人たちが、道を囲んで困った顔をしていた。

「たぶん、モグラの魔物だろうな」 
「夜のうちに、土の中を動き回ってるんだ」


 ロードは、少し離れたところから、その様子をじっと見ていた。


「直しても、直しても、同じだな」


「このままじゃ、馬車が通れなくなる」

 実際、道を整備しないと、馬車は大きく揺れる。
揺れれば荷物が崩れ、積み直しに時間がかかる。

「この前なんて、荷台が傾いてな」 
「危ないところだったよ」


 そんな会話を聞きながら、ロードの胸が、きゅっと締めつけられた。


(みんな……困ってる)


 毎日、長い時間をかけて道を直す大人たち。
泥だらけになりながら、黙々と作業を続ける。


(なんとか……できないかな)


 その日の夜。
ベッドに横になりながら、ロードは天井を見つめていた。

 ぼんやりとした意識の奥で、前世の記憶が、ふとよみがえる。


(……そうだ)


 道端に、赤い花が並んでいた風景。
 土の中の生き物を避けるために、植えられていた植物。


(彼岸花……)


 強い苦味と毒を根に持つ、赤い花。
 モグラが近づかなくなる、と聞いたことがあった。


「……それなら」


 翌日、ロードは勇気を出して、村人たちのところへ向かった。

「あのね……「道のわきに、苦い草を植えたら……どうかな」


「苦い草?」


「どういうことだ?」

 村人たちが、少し意外そうにロードを見る。


「えっと……土の中にいるの、いやがると思うんだ。
根っこが、すごく苦いやつ」


「ほう……」


「そんな植物、あったか?」


 ロードは一生懸命、言葉を選んだ。

「根っこに苦味があって……前にね、そういうのがあるって……聞いたことがあって」


 ガロウが腕を組み、少し考える。


「根に苦味がある植物を植えるか。試すだけなら、悪くないな」


「だな」


「どうせ、今も困ってるし」

 半信半疑ながらも、村人たちはうなずいた。


 道の脇に、根に苦味と毒のある植物を植え、土を固めて整える。
ロードも、小さなスコップで、できる範囲の手伝いをした。

「ここ、もう少し土をかぶせよう」
「お、気が利くな」


 それから数日後――
 道は、荒らされなくなった。

「……ぼこぼこに、ならないな」


「効いてるみたいだ」


 村人たちの声が、少しずつ明るくなる。

「助かったよ」


「いい考えだったな、ロード」


「えへへ……」

 照れながらも、ロードの胸の奥には、確かな手応えがあった。


(よかった……ほんとに)


 その夜。
胸の奥に、はっきりと世界の言葉が響いた。



『レベルが上がりました』



名前:ロード
種族:人間(4歳)


職業:未知の道(レベル5)


HP:20 / 20
MP:20 / 20


STR(筋力):11 VIT(耐久):11
AGI(敏捷):11 INT(知力):29
DEX(器用):11 LUK(幸運):23


適正属性:土
スキル

称号:なし


加護:【街道神ミチヒラキの加護:小】


貢献度:3 × 100 × 5 = 1500


(コンピテンシーレベル × 活動 × 影響)



「……やった」

 ロードは、ぎゅっと拳を握りしめた。

 コンピテンシーレベルも3だった。
 どうすれば被害を減らせるかを考え、最善だと思う方法を選び、実際に役に立てたからだと思う。


 その事実が、胸いっぱいに広がる。

 すると、再び世界の言葉が降りてきた。



『便りが届きました』


――街道神ミチヒラキより――


 職業レベル5、おめでとう。

 
君の活動は、ちゃんと見守っている。
 貢献度が上がったから、土の魔法適正を与えた。
これからも、その世界を楽しんでね。



「……ミチヒラキ様」


 ロードは、胸に手を当てた。
前世とは違う世界にいても、変わらず見守ってくれる存在。

(ありがとうございます)


 そして、静かに思う。

(土の属性で……なにが、できるんだろう)


 胸の奥に、わくわくが灯る。




 それは、次の一歩へと続く、確かな予感だった。

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