その名は、ガロリオン


 時は少しだけ遡る。


 魔術師ゴロアを前に、センは振り返り大田に話しかける。


「おい、そこのお前!」

「えっ、誰?」

「なんでそこで振り向くんだよ! お前だよ!」


 自分のことだと分かり、慌てて大田は抗議をする。


「お前って、僕は『大田植治おおたしょくじ』っていう名前が……」

「ショクジ! 今からお前のケーカルを……ガロを渡せ!」

「分かった!」


 即答。


「抵抗しても――え?」

「だから分かったって。どうやって渡すんだ?」

「――お前から直接頂く。腹に、オレの腕を刺す……つまり、お前は死ぬ」

「分かった!」


 やはり即答。


「いやだから――分かった?」

「ああ。僕じゃみんなを助けられないし――もう好きなデカ盛りが食べられないのが心残りだけど――」


「焼き殺せ」


 魔術師ゴロアが呼び出したワイバーンによって、2人へと炎が吐かれる。


「――止めろ、止めてくれ――!」


 大田が前に出る。

 そして、センは思いっきり――腕を大田の背中へ刺し込んだ。


「ぐっ!?」

「分かったぜショクジ。お前のガロ、全部喰らってオレ様がアイツらをブチ壊して――」


 センの腕にあるエネルギー変換機構を使い、体内エネルギーをすべてガロに変換――するはずだった。

 そこへ炎がやってきて、見る見る内に大田の肉体が焼かれていくが――体内から光が溢れる。

 大田の肉体は光へと分解され――その全てはセンの腕を伝い、その銀の肉体へと吸い込まれていく。


「なんだこの反応は!? オレは知らな――」


 だが、ここでセンも予想外の事態が起きた。

 センの肉体もまた銀の粒子へと変わり――白と銀の光は螺旋のように絡み合う。

 螺旋は渦となり、一か所へと収束していく。

 

 光の塊は、爆発した。


 ◇


 ◆


 ◇


 そして時は現在へ――。


「な、なんだお前は!?」


 ゴロアが驚きの声を上げる。


 炎の中から現れたのは、銀と黒の装甲に覆われた――鋼の戦士だ。

 顔の部分は黒いフェイスガードで覆われ、全身もスタイリッシュな肉体となっている。

 まるで特撮のヒーローのような姿になり、1番驚いているのは――。


『うええええ!?』

「えええええ!?」


 当の本人達である。


『オレ様がショクジのケーカル喰うはずが、逆に肉体奪われてるってどういうことだよ!?』

「知らないよ! これセンがやったことじゃないの?」

『キガノイドと有機生命体の合体とか――んなもん本星でも聞いたことねーよ!』


 2人(?)がワチャワチャしている間に、ゴロアは片手を上げた。


「ワイバーン共! 噛み殺せ!!」


 炎が効かないと思ったのか、即座に空を飛ぶワイバーンへ命じる。

 ワイバーンは命令を即時実行。大田達へ向かって大口を開けながら突進してくる。


「危ないッ!」


 その口を両腕で受ける。

 ザザッ――と足が地面を抉るが、それもすぐに止まる。


「ぐっ――ってアレ? 噛まれてない……うわッ、鋭い歯だ!」

『訳分かんねーが、今のお前は地球人よりオレらキガノイドに近い存在のようだ。その程度の鳥、ぶん投げてやれ!』

「だから鳥じゃなくて、ドラゴンだ――って!」

「GOAAAAAAAA!!」


 ワイバーンはそのまま炎を吐くが、大田は気にせず掴んだまま横倒しになったビルの壁へと――叩きつける!


「GUGYAAAAA!?」


「これで、トドメだ!」


 大田は飛び上がり、一瞬の対空――そののち、特撮ヒーローの如く飛び蹴りをワイバーンの腹へと食らわせる。

 接触した足の裏から光輝く白いエネルギーが弾け、爆発する。


 ドドォォォォン!


 そのままワイバーンは、白い爆発と共に四散した。


『なんだこれ!?』

「なんだこれ!?」


 やった本人もビックリの現象だ。


「闇の刃、我が前の敵を切り裂け――ダーク・ブレイド!」


 それを隙と見たか、すかさずゴロアは魔法で生み出した紫の刃を、大田へと投げる。

 高速回転する刃はまるでカッターのように大田の首を飛ばそうとしてくるが――。


「危ない!」


 思わず腕でガードする。これもまた接触すると同時に白い光に阻まれ――。


「てやッ!」


 もう片方の拳で殴ると、刃はガラスのようにバラバラになった。


「チッ。貴様ら、一時撤退だ!」


 ゴロアはこの正体不明な相手に不利を悟り、部下のゴブリンや残りのワイバーンに撤退を命じる。


『逃がすか!』

「――私はグルマン皇帝陛下にお仕えする七賢者が1人、魔術師ゴロアだ」


 安全な距離まで離れると、ゴロアは拡声魔法で名乗りを上げる。


「貴様の名はなんだ!」

『そんなの無視だ。ひとまずアイツを倒して――』

「名前、名前か……」


 ここで大田は腕組みをして考え込む。


『いや、ショクジ?』

「なんかヒーローみたいにカッコイイし、名前欲しいよな」


 窓ガラスに映る自分の姿を確認しながら頷く。


「大田植治、ガロ、セン……オオガロセン? センの名前なんて言ったっけ」

『えっ? あぁ、K-CALREON(ケーカルドロン)の1000だけど』

「ケーカル、リオン……ガロリオン……おお、よし」


 この間、数秒。


「僕――いや、俺の名前はガロリオン! ガロに導かれし、貴様ら帝国の野望を打ち砕く――正義と爆食の戦士だ!」


 決めポーズを行い、ビシッとゴロアを指差す大田こと、ガロリオン。


「ガロリオン――貴様の名、確かに覚えたぞ……シャドーミスト!」


 そう言ってゴロアは黒い霧をばら撒き――それが収まる頃には、どこかへ逃げてしまった後だった。


『あーあ。逃がしちゃった』

「それよりも、みんなを助けないと――」


 窪みにハマっていた3人は炎による酸欠で気を失っていたが、特に命に別状は無さそうだ。

 そこから3人を掘り出し肩に担ぐと――大田は跳躍しながら町全体を見渡す。


 町全体の至る場所でワイバーンが飛び、ワーウルフに乗ったゴブリンが走り回り、ビルがまた1つ――空の魔法陣へと消えた。


『あのゴロアという奴ら、好き勝手しやがって――おいショクジ、すぐにオレの宇宙船の下へ行け!』

「なんで?」

『宇宙船にはオレが使っている装備がある。いくら殴れば倒せるからって、奴らは空を飛んでいるからな――長距離武器は必要だ』

「よし分かった!」


 避難所になっているシェルターの中へ3人を預ける――中から出て来た人は、大田の姿にビビっていた。

 すぐに大田はセンの誘導に従い、先ほどの「大錦」があったビルの近くにある公園。その森の中に隠してある宇宙船へと向かう。

 宇宙船は半分以上地面に潜っているようで、パッと見れば半球体の遊具のようにも見える。

 その宇宙船の前に、小さな影がいくつか見える――。


『チッ、ガキに群がられているな!』

「アレはゴブリンだよ――ん?」


 ◇


「ぐへへ……」

「さっさとこっちに来るんだよ」

「いや……乱暴しないで……」


 宇宙船を背に怯えている若い女性が居る――それな社内でも美人で有名な女性社員の後藤碧ごとうみどりだ。


「大人しく従えが手荒な真似は……」

「ガロ、キィィィィック!!」


 大田は下品な笑みを浮かべるゴブリンの頭を蹴り飛ばし、そのまま後藤とゴブリン達の前へと立ちはだかる。


「なんだお前は!?」

「フッ――俺の名前はガロリオン。そう、正義と爆食の――」


『しねぇぇぇ!!』


 セリフを言い終わる前にゴブリン達が各々の武器を片手に、次々と襲い掛かって来る。

 

「えっ、ちょっ、待って!?」


 後ろの後藤を守る為、ここを動けない。


『待つ訳ねーだろ! すぐにこう叫べ――』

「登録コードK-CALREON(ケーカルドロン)1000、アクセス!」


『コードを確認しました』


 機械的な音声が、頭の中へと流れる。

 それはどう聞いても日本語でも英語でもなく、聞いたことのない言葉だったが――センのおかげで認識することができる。


「ケーカルランチャー、パワーユニット射出!」


『了解致しました――射出』


 半球体の頂上から長さ1mの砲身が付いた機関銃のようなモノと、小さな流線形の円盤が飛び出す。

 すかさずランチャーを受け取り、分割された円盤を両手両足に装着する。


「ぎええええ!!」

「――間に合わない!」


 ランチャーを発射せず――その長い砲身で、そのまま思いっきりぶん殴る。


『えぇ……』

「ぎえええ!!」


 どんどん飛びかかって来るゴブリンを砲身で殴って倒していると――気が付けば、残りのゴブリン達は撤退していった。


「はぁ、疲れた」

『なんのためのランチャーだよ』

「あ、あの!」


 後藤は自身が正体不明の謎の男に助けられたにも拘わらず、彼の手を取って感謝の言葉を伝える。


「ありがとうございました!」

「わわっ――えーっと、お嬢さん。お怪我はないでしょうか」

「はい、大丈夫です!」

「ぼ――俺はこのまま敵を倒すので、これで失礼!」

「あっ――」

 

 知人でもあるが、何より女性経験がゼロのガロリオンはそのまま走ってその場を後にする。


「せめてお名前を……」


 ◇


『さぁショクジ、どんどん撃ち落とせ!』

「ケーカル……いや、ガロランチャー発射!」


 ビルの屋上でランチャーを構え、空を飛ぶワイバーンに向けてトリガーを引く。

 砲身から放たれた光弾は次々とワイバーンを落とし、さらに紫の魔法陣までも破壊していく。


「これ凄い気持ち良いけど――なんかお腹が空いてきたな」

『お前のエネルギー使ってるからな』

「後でまた大盛を食べたいなぁ」


 ◇


 その様子を水晶玉を通して視ていた魔術師ゴロアは、焦ったように水晶玉を投げ捨てる。


「あのガロリオンと言ったか……このままでは私が皇帝陛下に粛清されてしまう――こうなれば!」


 ゴロアはこの町で1番大きな10階建てマンションの前に降り立つと、呪文を唱える。


「我が声に答えろ! 魂の牢獄に囚われし魔人の魂よ。今こそお前に肉体を与えてやろう――そして、あのガロリオンをブチ殺せ!」


 紫の魔力を杖に込め、それを天に向かって解放する。

 空に魔法陣が出現し、黒いモヤモヤした塊が降って来る。


「元魔王軍の力、存分に振るって貰うぞ」


 ゴロアが杖をかざすと――黒いモヤはマンションへと乗り移り、そして――。


 ◇


『これであらかた倒したな――』

「なんだあれ?」


 ビルの屋上からよく見える――それは今年の春に竣工したばかりの10階建てマンション。それが鈍い紫の色に光ったかと思うと――一瞬でバラバラになる。


「えぇ!?」


 バラバラになった瓦礫が渦巻くように回転し、巨大な人型へと姿を変えていく。

 マンションのエントランスホールのドア2つが目に、足や体にはおびただしい量の窓が付いている。

 その背丈は約40m。その総重量は約4万トン。大質量の鉄筋コンクリートゴーレムだ。


『ガロリオン! この私の自信作と戦え! すぐにこちらに来なければ……こうだ!』


 町中にゴロアの声が響く。

 それと同時にゴーレムの目が光り――。


「いけない!」


 紫の光線が町へ向けて放たれるが、それを最大出力のランチャーのビームで受け止め――空へと逸らす。


『さぁ、ここまで来い!』

「いかないと――町が危ない……」


 カロリー不足で少し足元がフラつく姿を見かねて、センが声を上げた。


『しゃーねーな。大田! 再びコードを叫べ。呼び出すのは――』


 ◇


「フフフ。さぁガロリオンよ、出て来い!」


 ゴロアがゴーレムの肩に乗り、街を見張っていたのだが――。


「ん?」


 ゴーレムを覆い尽くすほどの影が、どんどん広がっていく。

 ゴロアが空を見上げると――そこには、巨大なが迫って来ていたのだ。


「な、なななッ!?」

『超、ガロウロトラァァァ』


 街中に響き渡る声。

 それは紛れもなく、ガロリオンのものだった。


「キィィィィックッ!!」

「ぎよえええええッ!?」


 全長40メートルのゴーレムは、そのまま踏みつぶされ――鉄筋コンクリートの残骸へと変わってしまうのだった。

 ギリギリで回避が間に合ったゴロアは、その正体を見た。


 なんと――巨大な1本の脚が、大地に立っていた。


「なんだこのバケモノは!?」


 ◇


『基地のエネルギーがちょっと足りなくてな。脚1本分しか呼び出せなかったな』


 センが衛星軌道上に待機させてあった対惑星用巨大キガロイド型パワードスーツ。

 これはセンが月面に設営した秘密格納庫に、バラバラの状態で保管されている。

 そしてここまで呼び寄せたのだが、元より地球で奪ったエネルギーをアテにしてたので、現在はエネルギー不足。

 なので、脚1本分の移動で精一杯だったのだ。


 それをガロリオンの脚へと装着し、ゴーレムへとぶつけたのだ。


「いや大きすぎでしょ」

「おのれガロリオン! この恨み、絶対晴らしてやるからなッ!」


 コテコテの捨て台詞を吐いたゴロアは、虚空へと消えて行った。


「……これからどうなるのかなぁ、僕」

『とりあえずオレ様の体返せよな!』

「ていうか、これこのままじゃマズくない? なんかヘリとか近づいてきてる気がするけど」

『そりゃあんだけハデに暴れたらなぁ――ずらかるぞ!』


 巨大な脚は、そのまま足裏からジェットを噴出し――宇宙へと帰って行った。


 ◇


「へいらっしゃい!」

「油野菜マシマシマシ、カラメ」

「はいよ、大盛と油野菜マシマシマシカラメね!」


 店の入っていた建物も壊れてしまったので、避難所になっている学校で臨時オープンした「大関」で、いつもの合言葉を大将へ伝える大田。


「大田殿! ご無事でしたか!」

「いやぁこの間は酷い目にあったでござる」

「大将、俺も同じのね」

「鈴木君、佐藤君、田中君!」


 いつもの食事仲間に囲まれ大盛ラーメンを食べる大田。


 しかし、異世界からの侵略はまだ終わらない。


 明日からの新たなる戦いに向け――大田は今日も美味しくラーメンを完食するのであった。


 完。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶対完食ガロリオン ゆめのマタグラ @wahuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画