第6話 誰でも簡単にできる、頭が良くなる方法


あれからすぐに駆けつけた専属の医者が、エクレールの状態を検査した。


「恐らく、連日にわたる寝不足とそれによる魔力の枯渇が原因でしょう」


魔力の枯渇…。


魔力は、生物の持つ生命力とは別の、いわゆる超常的な力を源にしていると思っていた。


こういう扱いが一般的だとは思うが、作品によっては寿命や生命力そのものだという設定のものもある。


どうやらこの異世界では後者のようだ。


『せーかい! さすがセージ!』


脳内に直接話しかけるの、やめてくれないか。


君の声は頭が痛くなる。


『ひどい!?』


俺の知識量を侮ってもらっては困るな。


伊達に40年も生きていないんだ。


『そのわりに引用元は二次創作なんだね?』


うるさい。


「このまま安静にしていれば快復するでしょう。それではお大事に」

「はい。ありがとうございました」


出ていく医者を見送り、静まり返った部屋に残った俺とセラ。


「ふぅ〜。ちょっと疲れちゃった」


セラは、寝そべったまま、エクレールの寝るベッド横にある椅子にぽすんと着地した。


「ずっと浮いてたくせに疲れるのか?」

「だって〜。これでも人形を装っているんだから、なるべく人間の前では黙っていないと不自然に思われるでしょ?」


浮いている時点で相当不自然だけどな。


「セージは座らないの?」

「知らないのか? 座っている時間が長いほど寿命が短くなるんだぞ」

「え?! 嘘でしょ?!」

「本当だ。座りっぱなしは血流を滞らせ、肥満はもちろん、心臓病やうつ病なんかにも繋がる」


すると、セラはゆっくりと浮かび上がった。


「座るの、やめます…」

「それがいい。ちなみに、立っているだけで脳への酸素供給がスムーズになるし、集中力や判断力が向上するという研究もあるからそれなりに信憑性はあると思うぞ」

「ほんと?! やった! そしたら私、神界で一番賢くなれるじゃん! 皆んなには黙っとこ♪」


すると、ペアラSSの画面を見たセラの顔が青ざめた。


気味の悪い笑顔のまま。


「ぎゃあーー!! 配信切っておくの忘れてたぁーー!!」


興味本位で画面を覗き込む。



時空監視官長:『これからは立って観測するか』

音楽管理長:『ワォ! マジ?! 今度からチューニングは立ってしよーっと♪』

神界最高評議会会長:『ふむ。寝転ぶのは午前中だけにしよう』



「くっそー!! セージに密着取材する私の特権だと思ったのにぃ!!」


色々と空回りしているようだな。


……ていうか、神界の面々もガッツリ干渉してるじゃないか。


いや、そんなことよりエクレールの容体だ。


顔色こそさっきよりマシになったみたいだが、衰弱しきっているな。


医者の診断では、寝不足と魔力枯渇ということだが、本当にそうだろうか。


「エクレールの顔をまじまじ見つめてどうしたの?」

「いや、少し気になることがあってな」

「ま、まさか恋?! 可憐な女の子の儚さに惚れたとか?!」

「違う」


不摂生が影響しているのは間違いないとは思うが、もっと別の原因がある気がする。


体組織成分解析アナリシス』を使い、エクレールの身体を観察する。


「セージ?」

「しっ。集中させてくれ」


注意深くゆっくりと調べていくと、脳下垂体や肝臓の辺りに、魔力の粒子の蓄積を見つけた。



エクレール・ド・シガリア(人間・女王・23歳)


種族   : 人間(高魔力体質)

スリーサイズ: B98/W78/H102

身長   : 171cm

体重   : 78kg

体脂肪率 : 35%(皮下脂肪優勢)

性格   : ズボラ/気まぐれ/自己愛強め/感情に忠実/プライド高い

健康状態 : 睡眠不足/軽度脱水/魔糖素の異常蓄積(AFDA製品の摂取履歴あり)

ルーティン適正: 極めて低い(深夜活動&食生活の乱れが主因)

備考   : 魔力量は高水準だが、制御力が極端に不安定。BMIは26.7で過体重領域。魔糖素の異常な蓄積が検出。


魔糖素。


そういうことか。


脳に溜まったこの粒子は、寝不足などの不摂生による脳の制御が阻害されていることを意味している。


通常、糖質を過剰摂取した場合、代謝分解されずに余った糖質は肝臓に蓄積される。そして、やがては肝硬変や肝臓癌へと発展する。


糖質は付き合い方を間違えればそれだけ危険な栄養素となりうる危険な物質。


この魔糖素というのは、恐らく人間の世界でいう糖質に相当する成分のことだろう。


レントゲンのように透けて見える肝臓がこれだけ光って見えるということは、それだけ異常だということ。


相当量の糖質が肝臓に蓄積しているということだろう。


「セラ。王国の近くに川はあるか? そのまま飲めるような天然で良質な水だ」

「うん。町を出てすぐ北へいったところにあるよ」


良かった。


これならなんとかなるかも知れない。


「この子を助けられるの?」

「分からない。ただ、助けられるなら助けたい」


体調不良による辛さはよく分かる。


放っておけるはずがない。


「苦しいかもしれないが、もう少し我慢していてくれ」


エクレールは苦しそうに顔を歪め、小さくうめき声をあげる。


「急ごう」


こうして、俺たちは足早にシガレット城を出たのだったーーー。

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