第12話 妖怪譚 ―「だんからどん」

和光は古い城の石垣に座していた。夜半、濁音の「ん」で終わる響きが、妖怪となって姿を現す。

• だん ― 段の妖怪。階段を操り、上る者を迷わせる。進むべき道を断ち切る。

• ぢん ― 地の妖怪。大地に潜み、揺れを起こす。人の足元を不安にする。

• づん ― 頓の妖怪。突然現れ、秩序を崩す。予期せぬ混乱をもたらす。

• でん ― 電の妖怪。雷を操り、声を轟かせる。人の心を震わせる。

• どん ― 鈍の妖怪。重く鈍い響きを放ち、すべての動きを停滞させる。

和光は一体ずつ対峙しながら悟る。

「だん」は段差、「ぢん」は大地、「づん」は混乱、「でん」は雷鳴、「どん」は停滞――それらは人間の生を試す濁音の五つの力だった。

最後に「どん」の妖怪が囁く。

「すべては鈍り、終わりに沈む」

和光は答える。

「鈍りも雷も混乱も大地も段差も、すべては響きに還る。『ん』は境界であり、始まりでもある」

その瞬間、五体の妖怪は「ん」という一つの響きに収束し、城の石垣の闇へと消えていった。

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