第10話 妖怪譚 ―「がんからごん」
和光は山の洞窟に足を踏み入れた。そこには濁音の「ん」で終わる妖怪たちが潜んでいた。
• がん ― 岩の妖怪。石のように重く、動く者を押し潰す。人の意志を硬直させる。
• ぎん ― 銀の妖怪。冷たい輝きを放ち、欲望を凍らせる。財宝を求める者の心を試す。
• ぐん ― 軍の妖怪。群れを率いて襲いかかり、秩序を戦に変える。
• げん ― 言の妖怪。言葉の力を操り、真実を歪める。声そのものが呪いとなる。
• ごん ― 権の妖怪。支配の力を宿し、人の心を従わせる。
和光は一体ずつ対峙しながら悟る。
「がん」は硬直、「ぎん」は欲望、「ぐん」は戦、「げん」は言葉、「ごん」は支配――それらは人間の社会を縛る五つの濁音の力だった。
最後に「ごん」の妖怪が囁く。
「権を持つ者は境界を越えられぬ」
和光は答える。
「権も言も戦も欲も岩も、すべては響きに還る。『ん』は境界であり、始まりでもある」
その瞬間、五体の妖怪は「ん」という一つの響きに収束し、洞窟の闇へと消えていった。
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