第9話 妖怪譚 ―「やんからをん」

和光は月夜の野原に立ち、風に揺れる草の音に耳を澄ませた。すると「ん」で終わる音が妖怪となって現れる。

• やん ― 厄の妖怪。災いを呼び寄せ、人の運命を試す。

• ゆん ― 結の妖怪。糸を紡ぎ、人と人の縁を絡め取る。

• よん ― 呼の妖怪。声を響かせ、異界の存在を呼び寄せる。

• ゐん ― 古の妖怪。忘れられた音に宿り、過去を蘇らせる。

• をん ― 終の妖怪。すべてを閉じ、静寂に還す。

和光は一体ずつ対峙しながら悟る。

「やん」は災い、「ゆん」は縁、「よん」は呼び声、「ゐん」は古代、「をん」は終焉――それらは人間の生と宇宙の響きを象徴する五つの段階だった。

最後に「をん」の妖怪が囁く。

「すべては終わりに帰る」

和光は答える。

「終わりは始まり。『ん』は境界であり、永遠の循環を示す音だ」

その瞬間、五体の妖怪は「ん」という一つの響きに収束し、月光の中へと消えていった。

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