第8話 妖怪譚 ―「まんからもん」

和光は夜の城下町を歩いていた。すると「ん」で終わる音が妖怪となって現れる。

• まん ― 満の妖怪。欲望を満たしすぎて溢れさせ、人を飽和させる。

• みん ― 民の妖怪。群衆の声を操り、秩序を乱す。

• むん ― 夢の妖怪。眠りに忍び込み、幻を現実に変える。

• めん ― 面の妖怪。仮面をかぶり、真実を隠す。

• もん ― 門の妖怪。異界への入口を開き、境界を越えさせる。

和光は一体ずつ対峙しながら悟る。

「まん」は欲望、「みん」は群衆、「むん」は夢、「めん」は仮面、「もん」は境界――それらは人間の社会と存在を試す五つの段階だった。

最後に「もん」の妖怪が囁く。

「門を開けば、すべてが変わる。お前は境界を越えるか」

和光は答える。

「門は閉じても、響きは残る。『ん』は終わりであり、始まりでもある」

その瞬間、五体の妖怪は「ん」という一つの響きに収束し、城下町の闇へと消えていった。

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