第6話 妖怪譚 ―「なんからのん」

和光は深夜の寺に迷い込み、鐘の音に導かれて「ん」の響きの回廊へと足を踏み入れた。そこには五体の妖怪が待ち構えていた。

• なん ― 難の妖怪。試練を与え、人の道を険しくする。

• にん ― 忍の妖怪。影に潜み、耐える力を試す。

• ぬん ― 沼の妖怪。足を取って進路を惑わせる。

• ねん ― 念の妖怪。思念を増幅し、過去と未来を絡め取る。

• のん ― 音の余韻の妖怪。すべてを静寂に溶かし、存在の境界を曖昧にする。

和光は一体ずつ向き合いながら悟る。

「なん」は試練、「にん」は忍耐、「ぬん」は迷い、「ねん」は思念、「のん」は余韻――それらは人の生を形づくる五つの段階だった。

最後に「のん」の妖怪が囁く。

「お前の存在も余韻に溶けよ」

和光は答える。

「余韻は消えず、次の響きへと渡る。『ん』は終わりであり、始まりでもある」

その瞬間、五体の妖怪は「ん」という一つの響きに収束し、寺の鐘の音とともに夜空へ消えていった。

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