第5話 妖怪譚 ―「たんからとん」
和光は深夜の森を歩いていた。すると「ん」で終わる音が次々に妖怪となって姿を現す。
• たん ― 炭の妖怪。燃え尽きた灰の中から立ち上がり、人の情熱を黒く染める。
• ちん ― 沈の妖怪。水底に潜み、心を重く沈ませる。
• つん ― 津の妖怪。波のように押し寄せ、感情を荒れ狂わせる。
• てん ― 天の妖怪。空を覆い、運命を見下ろす。
• とん ― 頓の妖怪。突然現れ、秩序を断ち切る。
和光は一体ずつ対峙しながら悟る。
「たん」は情熱を炭に変え、「ちん」は心を沈め、「つん」は感情を揺らし、「てん」は天命を示し、「とん」はすべてを断ち切る。
最後に「とん」の妖怪が囁く。
「お前の旅もここで頓(とつぜん)に終わる」
しかし和光は答える。
「終わりは始まり。頓は境界を裂き、新たな響きを生む」
その瞬間、五体の妖怪は「ん」という一つの響きに収束し、森の闇へと消えていった。
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