第3話

「ええっ? ど、どういうこと? 私、あなたの実の母親なのよ……?」


「そんなの、関係ありません!」


 頬を真っ赤に染め上げ、きっぱりと言い放つエレイス。


 だが母親であるラキナからしたら、〝関係ない〟とはとても言い切れない。


 けれど、考えてみれば母親の記憶がほとんどないエレイスからしたら、そんなことは実際〝関係ない〟のかもしれない。


 生き別れの娘と再会できたと思ったら、まさか告白されるなんて誰が思うだろうか。

 全くもって予想外の状況にラキナが言葉を失う中、エレイスはさらに言葉を継ぐ。


「あの、今日から私、お母さんと一緒に暮らせるんですよね?」


「えっ? ええ、そうよ」


「そっ、それじゃあ、これからは毎日一緒にいられるんですねっ! け、結婚生活……みたい、ですね?」


「……そ、そう、かしら?」


 ようやく叶った、念願の娘との生活。

 早くも心配な状況になり始めたが、それでもラキナの胸中を占める感情は、新生活への期待の方が大きかった。



  ◇◇◇



 新居にて、エレイスはふとこんなことを口にした。


「お母さん、困ったことになりました」


「困ったこと?」


「私、誰かに恋愛感情を抱いたことが今までなかったので、どうしたら好きな人と仲良くなれるのか分かりません……」


「そうね、まずは相手のことを知ることからじゃないかしら。好きなものを聞いたりとか……」


 ——そう答えてから、しまったとラキナは思った。


 エレイスの好きな人は自分自身なのだ。娘に恋心を抱かれては困るのに、アドバイスをしてどうするのだ。


 だがもう時すでに遅し。エレイスは瞳を輝かせ、ラキナに質問してきた。


「それじゃあ、お母さんの好きな食べ物は何ですかっ!? それと、好きな色と、好きなタイプと、あと趣味もお聞きしたいですっ!」


「……ええっと、好きな食べ物は、そうねぇ。リゾットとか、ラザニアが好きよ。好きな色は、ラベンダー色かしら。


 好きなタイプは……特にないわね。そのとき好きになった人がタイプ、って感じかしら。趣味は、強いて言えば編み物とか、お裁縫ね」


「あ、ありがとうございますっ! 覚えておきます!」


 手帳にペンを走らせつつ、きらきらと瞳を輝かせるエレイス。


 これでよかったのだろうか、とラキナはさらに不安になった。


「あっ、そうだ! よければ、今欲しい物も教えてくれませんか? プレゼントしたいので!」


「あら、そんな気遣いいいのに……」


「いえ、気遣いじゃなくて私がしたいんです! だって私のお母さんですし、それに私の好きな人ですから!」


 普通は、〝母親だから〟か〝好きな人だから〟のどちらかではないのだろうか。

 

 だが、彼女に世間一般でいう〝普通〟は通用しないのだとラキナは観念した。


「そうね……欲しい物は特にないけれど、強いて言うなら最近年のせいか肩や背中が痛いから、整体に行きたいわね」


「それならちょうどいいです! 私、マッサージは大の得意でして! そこに横になってもらえますか?」


「あら、やってくれるの? ありがとう、悪いわね」


 ラキナがソファーにうつ伏せになると、「失礼します」と断りを入れてから、エレイスは彼女の上に軽く跨る。


 そして、親指をラキナの凝った肩に埋めた。


「あ〜……そこそこ、いいわねぇ……」


「……このへん、凝ってますね。重点的にほぐしていきますね」


「あっ——あぁ〜……、いいわぁ」


 こんなに気持ちのいいマッサージを受けたのは、生まれて初めてだった。

 凝り固まっていた肩がどんどんほぐれていく快感に、ラキナは思わず艶っぽい声を上げてしまう。


「ほんとに、上手ねぇ……んっ、あぁ……すっごく気持ちいいわ」


「…………」


「エレイス?」


「……お母さん、えっちですっ!」


 エレイスは顔を真っ赤にして、その場から立ち去っていってしまった。

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2025年12月28日 13:00
2025年12月29日 13:00
2025年12月30日 13:00

アラフォー魔女の私、生き別れの娘に一目惚れされました 秋葉小雨(亜槌あるけ) @alche667

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