第2話 珍しい生き物がいるわよ
俺は、大きな屋敷に近づいていった。
屋敷は、生け垣に囲まれている。
生け垣の隙間をくぐって、庭に入り込む。
小さな猫だったからできたことだ。
人間だったら、通り抜けるのは難しかった。
庭は、綺麗に整えられていた。
写真などでよく目にする西洋風の庭園だ。
花壇には、色とりどりの花が植わっている。
花の種類からして、今の季節は、春か初夏のようだ。
俺は、しばらくその庭園をうろうろしていた。
「あら?」
背後から声がした。
振り向くと、人間だった。
ドレスを着た金髪の美少女だ。
頭の両サイドの髪の毛がコロネのようになっている。
いわゆる縦ロールだ。
しかも地毛。
ウィッグではない本物の縦ロールを見たのは初めてだ。
後でわかったことだが、少女の名は、カトリーナ・プルサティッラ。
十四歳。
「まあ」
喜びと驚きが混ざったような顔で、俺を見つめている。
少しずつ俺に近寄ってくる。
猫好きらしい。
最初に出会った人間が、猫嫌いでなかったのは、運がよかった。
俺は、猫として一匹で生きていくすべを知らない。
愛猫家に養ってもらうしかないのだ。
「おいで、おいで」
カトリーナが、地面にしゃがんで、俺に手を伸ばす。
俺からだと、スカートの中が丸見えだ。
でも、脚全体を覆う股引みたいな下着をはいてる。
俺は、カトリーナの膝元まで近づく。
カトリーナは、恐る恐るといった感じで、俺に触ろうとする。
ひっかかれると思っているのか、不潔だと思っているのか、なかなか俺に手をつけてくれない。
(猫好きのようだけど、猫を警戒しすぎだな。
俺は、ひっかいたりなんかしないぞ。
体が清潔かどうかは、よくわかんないけど)
俺は、猫がこんな時どうするかを思い出してみた。
人なつっこい猫がすることといえば……。
「にゃあ」
一声鳴いてから、顔をカトリーナの足に擦りつける。
すりすり。
「あ、あ、あ」
カトリーナが、わなわなと震え出す。
おびえさせてしまったかなと思った次の瞬間、
「か、か、可愛いいいいっっっ!」
ぎゅっ。
突然、俺を持ち上げ、ぎゅっと胸に抱きしめた。
「なんて可愛い動物なのかしら」
さらに強く抱きしめる。
ぎゅっ。
さすがに息が苦しい。
俺は、カトリーナの腕の中でもがく。
「あら。
ごめんなさい。
苦しかったかしら」
俺を地面に下ろす。
ここまで激しく好かれるとは思わなかった。
猫好きの中でも、かなり上級らしい。
なでなで。
なでなで。
俺を
撫でられるのは、悪い気はしない。
結構気持ちがいい。
なでなで。
なでなで。
「何かあったんですの?
お姉様」
もう一人の人間が現れた。
おとなしそうな少女だ。
オレンジ色の髪を後ろで束ねて垂らしている。
カトリーナをお姉様と呼んでいるのだから、妹なのだろう。
姉と同じぐらい可愛い。
十一歳だと、後にわかった。
「見て、ニーナ。
珍しい生き物がいるわよ」
「まあ。
何かしら?
こんな動物、見たことがありませんわ」
(珍しい生き物?
見たことがない?
何を言ってるんだ、この子たちは?)
このあたりから、この世界が、地球とは違うことがわかってきた。
まだ完全に理解できたわけではないが。
「可愛らしいですわね。
この子、どうしたんですの?」
「ここにいたのよ。
どこかから迷い込んできたのかもしれないわ」
「迷子なのかしら」
ニーナも、俺のそばにしゃがんで、そっと指を近づける。
そぉーーー。
「わたくしも触ってもいいかしら」
「いいわよ。
でも、気をつけてね。
噛みつくから」
「きゃっ」
ニーナは、慌てて指を引っ込める。
「冗談よ。
噛みついたりしないから、大丈夫よ」
カトリーナが、くすくす笑う。
「もう。
お姉様ったらあ」
ニーナも、カトリーナと一緒に俺を撫で回した。
なでなで。
なでなで。
なでなで。
なでなで。
「なんて優しい手触りなのかしら」
「でしょ?
見て可愛いし、触って気持ちいい。
こんな不思議な生き物が、わたしの家にやってくるなんて、奇跡だわ」
なでなで。
なでなで。
なでなで。
なでなで。
さすがに、二人に撫でられるのは、少しうっとうしい。
猫を撫でたくなる気持ちはわかる。
ここは、我慢だ。
「ところで、お姉様。
この子、これからどうしますの?
わたくし、この子を……」
カトリーナが、ニーナの言いたいことを察する。
「ええ。
わたしも、そう思ってるの。
うちで飼いましょう」
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転生猫~猫が存在しない世界に猫として転生した男が唯一無二の世界一可愛い生き物として愛されまくって、ついでに鼠の化け物を退治してしまう話。 秋ヶ瀬胡桃 @veronica001
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