転生猫~猫が存在しない世界に猫として転生した男が唯一無二の世界一可愛い生き物として愛されまくって、ついでに鼠の化け物を退治してしまう話。
秋ヶ瀬胡桃
第1話 猫に生まれ変わったんだなあ
俺は、異世界に転生して猫になってしまった。
そして、今、美少女姉妹に可愛がられている。
実に平和で気楽な毎日だ。
しかし、この平和が崩れかけたこともあった。
そのために闘わねばならないこともあった。
俺が、いかにして今の平穏無事な生活を手に入れたのか。
その物語である。
俺は、日本のごく普通の社会人のおっさんだった。
おっさんだった時の名前は、
全然イケメンじゃない。
有能でもない。
さえない独身の弱者男性だ。
……って、そこまで卑下することもないか。
どうせ、過去のことだし。
ある日のことだ。
家の近所の狭い路地を歩いていた。
物陰から小さな何かが飛び出してきた。
ドブ鼠だった。
突然のことでびっくりした俺は、思いっきりのけぞった。
その勢いで、俺の体は、オーバーヘッドキックみたいに後ろに半回転。
ごんっ!
頭をアスファルトの地面に強打。
同時に意識を失った。
それから、何があったのだろう。
記憶が曖昧だ。
女神のような存在に出会ったような気もする。
その女神と何かを話したような気もする。
そして、また意識を失って、光のトンネルを通ったような……。
次に気がついた時、俺は、とんでもないことになっていた。
猫になっていたのである!
ぼやけた視界がはっきりしてくる。
すぐ目の前に草の生えた地面があった。
顔の下に、茶色い毛に覆われた二本の手が見えた。
手というよりは、前足だ。
その前足には、見覚えがあった。
猫の前足だ。
一瞬、俺の体の下に猫がいるのかと思った。
すぐに違うとわかった。
自分の体から生えた自分の両手だ。
俺の手が、猫のに変わっていたのだ。
手だけではない。
俺の体全部が、茶トラの猫なのだ。
しっぽまで生えている。
(そうかあ。
俺は、猫に生まれ変わったんだなあ)
さっき会った女神との会話は、思い出せない。
それでも、あの女神に転生させてもらったことは確信できた。
(それにしても、猫とはなあ)
前足の肉球で顔を触ってみる。
特徴的な鬚や鼻がある。
やっぱり、顔も猫だ。
でも、体が猫で顔だけ人間のクリーチャーなんて気持ち悪い。
全身が猫でよかった。
それに、こうやって考えていられるということは、脳は人間並みなのだ。
どうして猫の頭で人間らしい思考ができるのだろう?
そんなことは、気にしても仕方がないか。
今は、他に考えるべきことが多い。
これから先、猫として生きていかなきゃならないのだ。
(食べ物とか、どうすればいいんだ?
餌は、自分でなんとかしないといけないのか。
鼠とかを捕まえて食べるってことだよな。
そんなこと、俺にできるのかよ。
でも、やらなきゃ駄目なんだよな)
俺は、とにかく、歩き出すことにした。
しばらく歩いてから気がついた。
俺は、ちゃんと猫らしい歩き方をしている。
無意識に、二足歩行ではなく、四足歩行になっていたのだ。
走ってみる。
やっぱり、猫の走り方ができる。
走ろうと思うだけで、自然と、歩く時と足の動かし方が変わる。
全身をバネのようにして、軽快に草原を走る。
一本の木が見えてきた。
一メートルぐらいの高さに、太く横に伸びた枝がある。
猫なら、その枝に飛び乗れるはずだ。
走る勢いにまかせ、ジャンプした。
垂直な木の幹に足をかけ、勢いがあるうちに、もう一度ジャンプする。
簡単に枝に乗ることができた。
猫がブロック塀とかに跳び乗る時の要領だ。
木の枝から周囲を見渡す。
遠くに木でできた柵らしきものが見える。
草原は、牧草地だったらしい。
さらに遠方には、アルプスのような険しい雪山が連なっている。
美しい景色だ。
人間や他の動物の気配は、見渡せる範囲にはない。
ここは、長野県あたりの牧場なのだろうか。
その時は、そう思った。
風の中に、かすかに温泉の匂いがする気がする。
温泉地なのだろうか。
このことも、日本らしさを感じさせる。
枝から降りるのは、ちょっと苦労した。
地面へ直接飛び降りた方がよいか。
それとも、幹を伝いながら慎重に降りるか。
小さな体なので、迷う。
たまに高いところから降りられなくなって救助される猫のニュースを見るが、その猫の心情が少し理解できた。
俺も、調子に乗って木のもっと上まで登っていたら、そうなっていた。
しかも、周辺に助けてくれそうな人の姿はない。
結局、直接飛び降りることにした。
やってみると、意外と簡単に着地できた。
猫は、もっと高いところから落ちても、上手に着地できるらしい。
一メートルぐらいなら、わけもなかったのだ。
今、自分がいるところは、山の中腹の傾斜地のようだ。
とりあえず、坂を下っていこう。
そうすれば、人がいるかもしれない。
村か町なら、猫の餌ぐらいあるだろう。
(人間からキャットフードをもらえたとしても、俺の口に合うかなあ。
何しろ、頭脳は人間なんだぞ。
味覚も人間のままかもしれないし)
そんなことを考えながら歩いていると、建物が見えてきた。
薄い黄色の壁と明るい茶色の屋根が目立っている。
かなり立派な造りだ。
西洋の貴族の屋敷のようだ。
ホテルだろうか。
結婚式場か何かかな。
屋敷の周辺にも、いくつかの建物がある。
どれも、テレビなどで見たことのあるヨーロッパの古民家のようだ。
はじめは、テーマパークみたいな場所かと思った。
ドイツ村とか、そういうの。
この地が、日本でも外国でもなく、異世界だと理解できるまでには、まだしばらく時間が必要だった。
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