第47話 制限
焔は凜に張り付くように、行動を制限しようとする。凜にとって、脅威ではないが、周囲を舞う羽虫の如く鬱陶しい。しかし、振り払おうとすると、灰音の紅鏡が襲い掛かる。
灰音と焔は一見、連携が取れているように思えるだろう。だが、焔が灰音の邪魔をしていることにも凜は気づいていた。灰音は焔を巻き添えにする恐れがある場合に、確実に手を止めている。それが、凜の目には明確に映っていたのだ。要するに、灰音の紅鏡の攻撃軌道は焔によって非常に絞られているということである。
とはいえ、灰音が本命ではないことも、凜にはわかっていた。紅鏡の斬撃を回避させた後に続くような
三人の連携によって、凜は回避に徹しているように見えた。しかし、それは灰音たちが優勢という意味ではない。単に、凜が先ほどの猪突猛進を反省し、慎重になっているだけなのだろう。そもそも、凜たちの本来の目的は時間稼ぎでもある。
「何もしないでも、一人は脱落しそう」
見守る
「私が手助けする必要性はやっぱりないか。でも、無視されるのは良い気分じゃないよね」
明らかに、灰音たちが凜だけに集中しているのを見て、伊蝶は不服そうな表情を浮かべる。そして、自身の存在を示すように、伊蝶は扇子を投げようとする。しかし、伊蝶の意志に反して、構えた手が動かない。
「ん? いつの間に……」
その異常の原因は、霊魂術しか考えられない。つまり、相手の一人が伊蝶に邪魔をさせないために何かの術を使用しているということになる。
ちなみに、行動操作であれば、系統は
その後、伊蝶は灰音たちがいる方向とは反対に向かって、扇子を投げようとする。今度は、何も問題なく、そのまま投げることができた。次に、灰音たちの方を向いて、人物だけでなく、木などにも扇子を投げようとする。しかし、敵以外に向けた攻撃も制限されてしまった。
「なるほど、敵意に反応する仕組みじゃないな。外から干渉不可能な結界を張っているイメージか?」
そう呟きながら、伊蝶はゆっくりと灰音たちの方に近づこうとする。しかし、途中で透明な何かに阻まれる感触を覚えた。
「……予想通り。しかも、感触があるってことはおそらく幻覚術。でも、肝心の発動条件が謎だな」
いつ結界を張ったのかさえ、わからない。だが、術を隠密に発動できるということは、そこまで強力な結界ではないとも考えられる。
「まあ、別に何でも良いか。元々、凜に任せるつもりだったし」
術の解除も当然不可能なので、伊蝶は静観していることにしたようだ。結局、結界内で凜が
また、焔の限界が近いことは灰音と千里にもわかっていた。今は、三人で抑えて、凜が反撃に転じる隙を与えないのが、精一杯といったところだろう。焔が倒れると、一気に瓦解してしまうとも考えられる。ただ、徒に時間を消費しているわけではない。灰音たちにとっても、時間稼ぎは意味がある。
「……後、五秒」
千里が呟いた。その時間が何を表しているかは、灰音にも理解できた。次の瞬間、紅鏡を凜に向かって、振り下ろす。それは回避を強制させるだけでなく、紅鏡の斧刃と衝撃による砂埃で千里の小柄な体を隠すようだった。
一瞬、凜は千里を見失ってしまった。四方にはいない、つまり考えられるのは上空。咄嗟に天を見上げる凜。その目には、既に攻撃態勢を整えた千里の姿が映る。とはいえ、冷静に三叉槍を避けるだけで良い。しかし、それを封じることができるのが、千里の強みである。
攻撃の瞬間に、丁度一分経過。
相手は地面に直立しているとする。そして、千里が相手の頭上にいるとき、相手との間を隔てるように、地面と平行な幻壁が設置できるだろう。相手にとっては、天井が出現するような感覚ということになる。
ここから、幻壁が相手の背後の地面と触れるように、角度を調整し、傾斜がある天井を生成する。この斜面による分断は、五霊禁門の制約を遵守しながら、相手の背後を塞ぐことになる。もちろん、これは千里の高い跳躍力があってこその技である。
そして、凜も謎の障害物で後ろに下がることができない状況を認識したようだった。困惑の時間もないまま、三叉槍が凜の目の前まで迫る。しかし、避けることができないのならば、受け止めれば良い。
刃先が届く直前に、凜は手で三叉槍を掴むように停止させる。これは、単純な反射神経だけでなく、凜が防刃手袋を着用しているため、可能な所業でもある。
とはいえ、三叉槍を止めるのに、意識を大きく割いてしまったのも事実。気づいたら、焔が背後に回っていた。五霊禁門における幻壁の対象が一人に絞られてしまうことは弱点だが、味方の邪魔をしないという意味では利点にもなる。
焔の攻撃は幻壁の境界を乗り越えるように、凜の背部に届く。
ちなみに、凜の目は焔だけでなく、再び紅鏡を構える灰音の姿も捉えていた。とはいえ、灰音が攻撃をすることはないと凜は考えていた。なぜなら、明らかに焔が巻き込まれる位置にいたからだ。
しかし、現実は違った。凜の視界に映る灰音は、そのまま紅鏡を振ろうとしている。凜も混乱しただろう。直霊には、味方ごと斬る覚悟があったのか。では、先ほどまでの焔を避ける動きは何だったのか。それこそが、この一撃のための布石だったとでも言うのだろうか。いや、相手が何を考えているのかは、もはやどうでも良いことだ。
攻撃は来ないと割り切っていたせいか、紅鏡は既に近くまで迫っている。千里の三叉槍と違い、紅鏡は高熱によって受け止めることはできない。焔も逃げることなく、灰音と挟撃するように凜の背後を塞いでいる。広範囲の横振りを想定するならば、回避するべきは上。直感的にそう感じた凜は、足に力を込めて、地上を離脱する。
一方、灰音は凜が上に跳ぶのを見て、紅鏡を急停止。焔に直撃する寸前で、攻撃は中断されることになる。というか、元から焔ごと斬るつもりなど一切ない。
そして、最後の一撃は千里に託された。空中に浮いた無防備な敵こそ、格好の餌食。千里はこの瞬間をずっと待っていたのだ。
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