第46話 信頼
「……なるほど」
「残念ですが、今回は諦める以外の選択肢がないようですね」
やけに大きな独り言だった。
「ということで、またお会いしましょう」
想は
次の瞬間、爆発音が轟いた。場所は裏門の方だろうか。本殿付近から裏門は視認できないので、状況はわからないが、音で察することもできるだろう。
「私たちを追跡するのも、また一つの選択。しかし、わざわざ人が集まる期間に襲撃した意味を考えるのも、良いかもしれませんね」
想の言葉によって、思考に迷いが生じた。その時点で、遅れを取ってしまったとも言うべきだろう。気づいたら、想は仮面の人物を連れて、垣を越えるように逃走していた。
また、詠の足は無意識的に裏門の方に動いていた。参拝客や神社の皆の安否を確認せずにはいられなかったのだろう。一方、椿の足は止まっていた。誰を追いかけるべきか迷ってしまったのだ。しかし、冷静な者もいた。
「あの子は私と
「……了解です」
返事をした後、椿は参道の方へ駆けていく。七瀬も紫苑を連れて、裏門の方に向かっていった。
その後、想たちは直霊との物理的な距離を稼ぐため、ひとまず十月神社から遠ざかるように走っていた。
「それにしても、想は息を吐くように噓を言うよね」
道中、薫が想に話しかけた。
「欺騙こそ、敵と会話する主な理由ではないでしょうか?」
「うーん。言われてみれば、そうかも」
薫は頷くような仕草を見せる。
「ちなみに、これからの指示は何かある?」
「薫さんは先に
「わかった」
直後、二手に分かれるように、薫は想たちから離れていった。
「それで、術が解除されたことについて、どうお考えですか?」
二人になった後、想が仮面の人物に質問をした。
「……最初に言っておくと、私が解除したわけじゃない。というか、そもそも不可能」
仮面の人物が口を開いた。声からして、若い女性といったところだろう。
「別にそこは疑っていないです」
「……そう。でも、正直なところ、私にも理解不能。無効されることはあっても、解除されたことは皆無」
「なるほど。結局、謎ですか……」
想は少し溜息を零す。
「後、確認ですが、あなたの術はあの剣士にも通用するのですよね?」
「……それは保証する」
仮面の人物は、確かな返事をした。
「今回は、私の頑張りが足りなかったと。しかし、あの剣士を術中に嵌めるのは困難を極めると思いますね」
「……無効されないだけでも、良い方」
「操作術などは基本的に全無効でしたっけ? にわかには信じられないですが」
膨大な記憶の中でも、二つとない話である。
「……私の情報が虚偽と言いたい?」
「疑心も重要です。実際、話と違う部分があるではないですか」
「……どこ?」
仮面をしているので、表情はわからないが、険しい声色である。
「あなたの話では、二刀流の剣士の他に、鬼火の術者が必ず戦場に姿を見せるということでしたよね? その鬼火とやら、未だに顕現していませんが?」
「……それは私も不思議。直霊の中でも頭一つ抜けた戦闘力があるのが、その二人なのは事実」
「姿を見せない理由があると?」
例えば、既にこの世を去ったなどの理由が考えられる。
「……推測は無意味。とにかく、鬼火が視界に入ったら、離れるのが良い」
「尻尾を巻いて逃げるしかないとは……」
「……鬼火を物理的にどうにもできない以上、仕方ない」
そして、想と仮面の人物の会話が続く中で、背後に映る十月神社の建造物も、景色から消えていくのだった。
時は遡り、参道付近では、屍を破壊してしまった後、
「……伊蝶、すまない」
「別に気にしないで。人形はまた用意できるから。でも、これで負けたら許さないよ?」
謝る凜に対して、伊蝶は言葉を返した。
「私の敗北が想像できるのか?」
「いや、全然」
凜の質問に、伊蝶は首を横に振った。
「ならば、伊蝶はここで見ていると良い」
「元から、そのつもりだよ」
ちなみに、見ているだけであれば、伊蝶はわざわざ敵の前に顔を出す必要はない。しかし、伊蝶が避けたいのは、一人で隠れているところを発見、撃破されること。それよりも、凜の力をいつでも借りることができる位置にいるのが、無難であるだろう。つまり、伊蝶にとって最も安全な区域が凜の周囲。それは、凜の周囲が敵にとって最も危険な区域であることを意味している。
一方、高火力を誇る凜に対して、灰音たちは策を練っていた。
「千里さん、例のやつはもう見せました?」
「いや、残している」
灰音の質問に、千里が即座に答えた。
「私と焔が隙を作ります。後はお願いしても良いですか?」
「任せろ。必ず、仕留める」
確固たる言葉に、灰音の信頼も揺らぐことはなかった。そして、次に灰音は焔の方へ顔を向ける。
「焔、複雑な指示はしない。ただ一つだけ、私を信じて」
「はい!」
それは、わざわざ言葉にする必要がないものだったかもしれない。
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