第29話 試練
「……勝負ですか?」
「はい。私が術者を相手にできるかどうか、実際に確かめるということです。
「そうですけど……」
「そして、私が勝負に勝てば、直霊の皆さんには帰っていただく。逆に、私が負ければ、神在大祭の期間中に、この神社での自由な活動を認めましょう」
「なるほど。わかりやすくはありますが……」
「あなた方が善意で神社の警護に来たわけではないことも理解しているつもりです。要するに、御神玉を餌にして、その危険な集団とやらを捕まえたいのでしょう?」
直霊の目的も、
「そこまで推察されているのならば、別に隠す必要もなかろう。その勝負とやら受けて立とう!」
「
「話を進めるためじゃ。このまま引き下がるわけにもいかんだろう?」
千里の言葉に、灰音も黙り込んだ。
「私との勝負をしないのであれば、そこで話も終わりです」
「……わかりました」
灰音も渋々、詠との勝負を受け入れたようだ。
「では、ルールは一対一、武器は禁止、勝利条件は相手の無力化ということで良いですか?」
「無力化というのは?」
「わかりやすく、地面に倒れ込んで十秒間経過したら、敗北としましょう」
その後、他の細かいルールも決定された。
「一応確認ですけど、霊魂術は使用しても良いということですか?」
「当然です。私が術者と戦えるかどうかのテストなのですから」
「そうですよね……」
灰音は苦笑いをしている。霊魂術を使用して良いのならば、直霊があまりにも有利なのだ。
「それで、誰が行くのじゃ? 余でも良いぞ」
「どうしましょうね……」
詠の相手に誰が付き合うか、灰音たちは悩み始めた。もちろん、これは誰が最も勝てるか悩んでいるのではなく、誰が最も上手に手加減できるかを悩んでいるのである。
「最後に一つだけ、私から指定しても良いですか?」
灰音たちの話し合いに割って入るように、詠が口を開いた。
「はい、何でしょうか?」
「その後ろにいる
詠は千里の背後にいる椿を指差した。それを受けて、隠れていた椿の肩が一瞬跳ねる。
「椿、お前舐められているのではないか? 情けないの……」
「そ、そうですかね……」
千里は溜息を零した。直霊の一員、それも特認の実力を持っている人物として、椿には舐められないような態度を取ってほしいと、千里は考えているのだろう。
「舐めているつもりは一切ありません。あなた方の中で最も強い人を選んだつもりでしたが、違いましたか?」
「え?」
「……ほう。中々、見る目のある子じゃ」
詠の鋭さに千里は感心しているようだ。
「椿、お前が相手してやれ」
「……千里さんがそう言うなら引き受けます」
「決定ですね。では、場所を移しましょう。神様の前で争うわけにもいきませんので」
その言葉の後、詠は神社に隣接する森の方へ歩き出す。他の皆も、詠の後を追い始めた。
「詠さま、素直に直霊と協力しても良かったのではないでしょうか?」
道中、後ろを歩く灰音たちには聞こえないように、
「
「……試練ですか?」
「うん。確かに、直霊に協力してもらえば、御神玉を防衛できる可能性は大幅に上がるかもしれない。でも、私はそれじゃ駄目だと思う」
式守は、詠の表情から並々ならぬ覚悟を感じ取った。
「今年の神在大祭で直霊と協力して、御神玉を守ることができたとして、来年はどうする? また、直霊に手伝ってもらうの?」
「そ、それは……」
「そもそも、敵が神在大祭の期間中に現れるとも限らない。でも、直霊や警察に神社で常駐してもらうわけにはいかないでしょ?」
直霊や警察は、神社側に神器を渡してほしいのである。神器は渡さないが、それを一緒に守ってほしいというのは虫が良すぎるということだ。
「結局は、自分で御神玉を守るしかない。だから、その力があるかどうか、私はここで試すことにした」
「……わかりました。お怪我だけには気をつけてくださいね」
「大丈夫。私はこの一年間、のんびりと生きていたわけじゃない……」
詠は独り言のように呟いた。それはまるで自分に言い聞かせているようにも感じられる。
「詠さま、最後に一つだけ聞いて良いですか?」
「ん、何?」
「私たちの力では御神玉を守れないとわかった場合はどうするのですか?」
式守が不安気な表情で詠に尋ねた。しかし、その言葉に詠は少し笑みを零した。
「答えは単純だよ。御神玉を守れるほど、私がもっと強くなれば良い」
詠は自信満々な様子だが、式守はそれを心配そうに見つめている。
その後、一行は森の中の開けた場所まで辿り着いた。戦いには十分な広さの土地であるだろう。
「この辺りで良いでしょう。ちなみに、ここも神社の私有地です。遠慮は要りません」
そして、詠は灰音たちの方に振り返った後、椿へ視線を送った。それを受けて、椿が前に出る。逆に、詠と椿以外は二人の邪魔にならないように離れ始めた。
「ところで、椿さんは剣士ですけど、格闘戦でも最強なのですか?」
「うん、頭一つ抜けて強いね。素手の椿でも、勝てるイメージ全く湧かないもん」
「椿は色々特殊だからな。あれと比べる方がおかしいというものじゃ」
式守が不安そうに詠を見つめる一方で、灰音たちは悠々と会話をしているようだ。
「では、この石を上に投げますので、それが地面に着いた瞬間に開始としましょう」
詠が椿に話しかけた。
「わかった。それで良い」
「何か雰囲気変わりましたね。そちらが本性ですか?」
椿の返答の様子に、詠は少し面を食らったようだ。
「……ノーコメントだ」
「そうですか」
直後、詠は手に持った石を天高く投げた。
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