第27話 出雲

 なおが会議している頃、おもいたちも隠れ家で何やら会話をしているようだった。


ちょうさん、次の準備はどうですか?」

「いつでも行ける」


 想の質問に、銀色のポンチョを身に纏った女性が答えた。手には扇子を持っているのがわかる。また、彼女は伊蝶と呼ばれているようだ。


「ありがとうございます」

「それよりも、想。今回の件、あの人は結構怒っているように見えたけど?」

「……想定内です」

 

 想は小さく溜息を吐いた。


「後、はくの件は大丈夫なの? せっかく、立橋たてばし製作所に罪を着せたのに、私たちの仕業だと気づかれたということでしょ?」

「別に、全て水の泡になったわけではありません。直霊に顔を見せてしまった琥珀さんを責めるつもりもないです。逆に、琥珀さんを堂々と前線に出せるようになったと考えることもできますし」


 想の言葉の後も、伊蝶はまだ納得していないように見えた。


「でも、やっぱり、誘拐対象を琥珀に変更したのは間違いだった気がするけどね」

「私は琥珀さんが持つ霊魂術を評価しています」

「……そう。まあ、想が後悔していないなら、何でも良いけどさ」


 そして、伊蝶は口を閉じた。


「というか、今回の件は一緒にいたりんが止めれば良かっただけの話じゃない?」

「ん?」


 かおるから急に自分の名前を呼ばれて、凜は声が出た。


「凜は何も考えていないからな……」


 しずくがひっそりと呟いた。


「雫、もう一度言ってみろ」

「……何でもないです」


 睨むような凜の圧力に雫は負けた。


「さて、今後の話ですが、詳しい作戦については、もう少し練る時間をいただきたいと思っています。前回のこともありますので」

「うん、ゆっくりで良いよ」


 薫は微笑みながら答えた。直後、薫に同調するように他三人も無言で頷いた。







 直霊が会議を終えた後、天老による議論も始まっていた。直霊の報告資料を眺めながら、天老の四人が円卓に座している。


「今回に発見された神器は破壊されたということだ。一応、直霊が現物を持って帰ってきたようだが、何の役にも立たないだろう」

「……良くも悪くもない結果ですね」


 杖の男性の報告に、数珠の女性が淡々と言葉を吐いた。


「もはや神器の話はどうでも良い。四家の当主に子孫がいた可能性が出てきているのだろう?」

「はい。術の特徴が一致しているようです」

「完全に潰したと思っていたが……」


 苛ついているのか、片眼鏡の男性は舌打ちをした。


「まあ、落ち着け。それに、当主の子孫に有用性があると考えても良いかもしれない」

「……なるほど。我々もそろそろ動きますか?」

「いや、まずは直霊に情報収集させた方が良いだろう」


 杖の男性の言葉を最後に、天老の四人も会議を終えて、場から姿を消していった。







 直霊の会議から一週間後、東京から西に向かって走る寝台列車の中にははいたちの姿があった。


椿つばきはもう怪我は大丈夫なの?」

「た、たぶん、それはこっちの台詞だと思う……」

「私は見ての通り、元気一杯だよ?」


 灰音は笑顔でポージングをしている。


「灰音、今回は余と椿が主に動く。良いな?」

「もちろん、わかっていますよ。無理はしません」

「……」


 せんはまだ疑心暗鬼のように見える。


「あの、これから行く十月とおつき神社って、どんなところなのですか?」


 ほむらが灰音に尋ねた。


「私は行ったことないから、詳しく知らないな。椿は確か行ったことあるよね?」

「う、うん。一度だけ……」


 神器の件で、椿は数年前に十月神社を訪れたことがあるらしい。


「十月神社は、神の国とも呼ばれる出雲の中で中心のような存在みたい。実際、建築の規模や年季の入り方は相当だと感じた……」

「ふーん。確か、全国の神が出雲に集まるみたいな話あったよね?」

「う、うん。名の通り、旧暦の十月に八百万の神が十月神社に集結して、『神在大祭かみありたいさい』という行事が開催される……」


 故に、旧暦の十月が神無月と呼ばれている。逆に、出雲では旧暦の十月を神在月と呼ぶことになる。


「その神在大祭って、今年はいつ開催されるのですか?」

「今月の三十日から一週間……」

「え、来週じゃないですか」


 焔の目が見開いた。


「来週だからこそ、行くのじゃ。神器が狙われる可能性が高いのが、祭の期間中であることは間違いない」


 大きな催しであるからこそ、紛れることも容易だろう。それに、神社も忙しくなるので、警護の穴を突きやすくなる。


「なるほど、私たちが警護するということですか」

「神器を守ることは、そこまで考えなくても良い。当主の子孫らしき人物たちを捕まえることが最優先じゃ」

「……そもそも現れてくれると良いのですけどね」


 木霊こだまじまで遭遇した集団がたまきざみらいきゅうを狙っていたことは確定事項としても、十月神社にあるたま宿やどりうんぎょくの強奪を考えているとは限らない。


「ところで、奴らの一味である琥珀とかいう女子は何の術を使うのじゃ?」

「感情の伝達をする術ですね。心が読める術者を自称していました」

「え、えっと、灰音の話を聞く限り、相手から自分への攻撃的な感情に反応することで、タイミングを読んだ回避ができるのだと思います……」


 つまり、思考を読んでいるわけではないと考えられるということである。なぜなら、れいえんによって、灰音の精神思考はもはや他者が追従できるものではないからだ。


「そうか。それだけなら、特に警戒するまでもない。幾ら感情が伝わろうが、肉体が追いつかなければ、無意味かろう」

「まあ、そうですね……」


 その後、灰音たちを乗せた寝台列車は着々と目的地に近づいていくのだった。

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