第21話 合流

 龍宮たつみやが放った神器の矢は、再びしずくの操作人形によって防御されてしまった。しかし、神器を防ぐことに意識を割いていたせいか、操作人形は龍宮の追撃をもろに受けてしまう。結果として、操作人形は龍宮の蹴りによって吹き飛ばされ、木に打ち付けられるように倒れてしまった。


「……まず一人」


 龍宮はそう呟いた後、続いておもいに狙いを定める。武器を持つ人物をまず狙うのは当然だと言えるだろう。


 そして、龍宮の回し蹴りが想の頭部目掛けて襲い掛かる。しかし、想はそれを屈むことで躱した後、逆に龍宮の体を掴んだ。更に、足を引っ掛け、想は龍宮の体を投げ飛ばす。体が一瞬上下逆さになるが、龍宮は受身を取った後、転がるように想との距離を取る。


 直後、想が銃弾で追撃を入れるが、龍宮も紙一重で回避には成功した。また、龍宮は想の強さに驚いていた。銃で片手が塞がっている状態で、人を簡単に受け流すことができる技術の高さに感心していたのだ。


「意外ですか? 私こう見えても、体術には自信ありますよ」


 想が次の弾を装填しながら、龍宮に話しかけた。次の瞬間、ぶきかおるが挟み込むように龍宮に攻撃を仕掛ける。


 しかし、力勝負では龍宮に分があるようで、衣吹と薫は逆に押し返されてしまった。だが、その間に操作人形が復帰し、再び盾の役割を果たそうとしていた。


「……まだ動けるか」


 龍宮が操作人形に与えた損傷はかなり大きいものだったが、術で無理矢理動かしていると考えると、完全に行動を停止させるためには、それこそ肉体を死に至らしめるほどの攻撃が必要だということになる。


 そこで、龍宮は操作人形に接近し、頭部への強烈な一撃を入れた。邪魔な盾役を完全に潰した後に、操作人形に刺さった矢を回収する目的もあっただろう。しかし、操作人形は最期の力で巻き付くように龍宮の体を拘束した。龍宮は男性を振り解こうとするが、一瞬動きが止まってしまう。


 その隙に薫が龍宮に拳を叩きこもうとするが、当然これは本命の攻撃ではない。別方向には、龍宮に向けて銃を構える想の姿があったのだ。


 しかし、龍宮も負けてはいない。薫による足止めの攻撃を捌きつつ、想の姿もしっかりと視界に捉えていた。薫の体を逆に利用して、想の射線を防いでいたのである。ところが、それは龍宮の幻想だった。


 想の反対側に、同じく銃を構えたもう一人の想がいたのだ。龍宮がそれに気づく、つまり衣吹の幻覚術に騙されていたことを自覚したときには、もう手遅れだった。一瞬の間に、龍宮は自身の敗北を悟った。しかし、その予感は外れることになる。


 撃たれたのは、何と想の方だった。その場に倒れ込む想に、龍宮だけでなく、薫と衣吹も何が起きたか、わからなかっただろう。即座に、三人は想が撃たれた方向を見た。


 そこにいたのは、テーザー銃を手に持った女性だった。その女性こそ、静かに神器を追跡していたななである。


 七瀬は途中から龍宮たちの戦闘を陰ながら見ていたのだ。なぜなら、七瀬には戦闘に一人で参入するほどの力がないからである。だからこそ、はいほむらを待つために時間を稼ごうとしていた。なおにとって避けなければならないのは、想たちによって素早く神器を奪われた後に逃げられてしまうことである。つまり、七瀬は龍宮を手助けしようと機会を伺っていたのだ。


 そして、七瀬の攻撃で倒れてしまった想には、薫が真っ先に近づいた。


「想、大丈夫?」

「……はい。腕がまだ痺れますが、動くことは可能です」


 その言葉の後、想がゆっくりと立ち上がった。


「周囲の警戒を私たちがするべきだった。想、ごめん」

「反省会は後にしましょう。まずは神器を手に入れないと……」


 想は体勢を立て直した後、先に七瀬を制圧することにした。その後、薫と衣吹が七瀬に向かって走り出す。七瀬はカートリッジを交換し、テーザー銃で迎え撃とうとしたが、射出された電極は薫たちには届かなかった。途中で、想が撃ち落としたからである。想の射撃精度の高さには、七瀬も驚いただろう。


 しかし、薫と衣吹の攻撃も七瀬に届くことはなかった。なぜなら、二人の女性が薫と衣吹に奇襲を仕掛けたからだ。


 その二人の女性とは、急いで駆けつけてきた灰音と焔である。つまり、増援が間に合ったのだ。そして、灰音と焔の攻撃によって、薫と衣吹は再び押し戻されることになる。


「遅れてすみません、七瀬さん」

「いや、よく間に合わせてくれた」


 七瀬は焔が無事なのを見て、安心しているように見える。その後、灰音は目の前にいる三人を睨むように見つめた。


「奇遇ですね。こんなところで、また会うとは」

「わかっていたことでしょう?」


 灰音の言葉に、想は微笑みながら返した。また、この間に龍宮は現在の状況を整理していた。彼女たちが仲間ではなかったことを理解したのである。更に、龍宮は完全に動かなくなった操作人形の体から矢を回収することに成功していた。


 ちなみに、龍宮は神器を守るという目的を忘れつつあった。純粋に戦闘を楽しんでいたのである。龍宮が全力を出した場合、普通の人間では当然太刀打ちできない。故に、龍宮は通常の戦闘に飽きていたとも言える。だからこそ、想たちとの戦闘に心を躍らせていた。そして、龍宮は邪魔な灰音たちを手始めに排除することに決めたのだ。


 龍宮は灰音たち三人に、それぞれ神器の矢を放った。だが、同じ手を二度も食らうことはない。灰音はれいえんによって、速度や軌道を予測し、三本の矢を連続で掴み取り、そのまま投げ捨てた。


 しかし、それは龍宮も想定内と言ったところだろう。その隙に龍宮は灰音たちの目前まで接近していた。ちなみに、想たちは完全に漁夫の利を狙い、機を伺っているようである。


 龍宮はテーザー銃を持つ七瀬にまず狙いを定め、殴り掛かろうとした。七瀬は咄嗟に防御の構えを取ったが、龍宮の目的は物理攻撃ではなかった。龍宮は七瀬の腕に優しく手を触れて、怨念を流し込んだのだ。これは、怨念のストックを消費してしまうが、敵の数をまず減らさないといけないと考えたからであるだろう。しかし、それが裏目に出てしまう。


 怨念を与えたはずなのに、七瀬には何の影響もなかったのだ。龍宮の誤算だったのは、怨念が持つ負のエネルギーに耐性がある人間、つまり普段から怨念に触れている人間には、えんひょうの弱化が効かないことであった。


 一瞬動揺したのも束の間、焔の獄煉赫ごくれんかくによって強化された一撃が龍宮を襲う。大きく吹き飛ばされる龍宮。七瀬へのストック消費によって、自分への強化分が少し減ってしまったことも影響し、龍宮は行き止まりの壁面まで離されてしまう。


「……ふざけるな」


 龍宮はストックを無駄に消費させられてしまったことに苛ついているようだ。そして、龍宮にとって最大の失敗は、神器を守るという目的を失念していたことであった。龍宮が怒りによって力んだときに、たまきざみらいきゅうが折れてしまったのだ。


 それを見た皆の表情は凍り付いていた。目的を失ってしまったのだから、当然である。しかし、神器の破壊が意味するのは、それだけではない。

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