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私がそんなことを思っていると、目の前の男が再び口を開いて私に言う。


「ところで、こんな時間に外に居るということは、お姉さんもしかして残業帰りとか?大変ですねぇ」


そんな男性の親しげな口調に、私はさっきまでの絶望感を抱えながら、その親しげな口調につい乗っかるように口を開く。


「そう、そうなのよ!実は今日会社で失敗しちゃって、まぁ上司のおかげでなんとか大事にならずに済んだけど、取引先の社長から怒りの電話がかかってくるわ取引しないって言われるわ、上司から“お前なんかいらない”って言われるわ、もう散々だったんだから」

「…」

「…あ、ごめんなさい。こんな愚痴を初対面のあなたに溢しちゃって…」


しかし私は直後に自分の失態に気が付くと、そう言って口を噤んだ。

何やってるのよ私…いくら人に愚痴を聴いて貰いたかったからって…。

ところが私がそう思った直後、男性が言った。


「良かったらその愚痴、俺がじっくり聴きましょうか?」

「え、」

「俺、実はこういう者なんです」


男性はそう言うと、自身のスーツのポケットから名刺を一枚取り出した。

私はその名刺を受け取ると、そこに書かれてある名前をまじまじと見つめる。


「心理カウンセラー…黒間、恭一…?」

「はい。実は俺、普段心理カウンセラーをやってるんです。良かったらいつでもお話聴きますんで、その名刺に書いてある番号にいつでもかけてきて下さい」


それじゃあ。

男性はそう言うと、私に軽く会釈をしてその場を去って行った…。


…それにしても、素敵な人だったなぁ…。


******


今日も残業になってしまうかもしれない…。

お昼過ぎのいつもの部署内で、時計とパソコンを交互に見ながらキーボードを打って行く。

あの素敵な男性との出会いがあった翌日の今日。

出来れば今日の仕事後にでも早速彼に電話をかけてみたかったが、今日も定時には仕事が終わりそうにないためそれは出来そうにない…。


昨日のあの男性…黒間さんは、彼女いるのかな?

中身が少しチャラそうだったけど、悪い人ではなさそうだった。

何せ「心理カウンセラー」だし。


……いや、違う違う。

今はそんな場合じゃないんだった。

すると、そう思いながらパソコンの画面に集中していた時だった。


「森本、」

「…はい?」


私は不意に上司に声をかけられ、背後に立つ上司の方を振り向いた。

その上司はもちろん、昨日私に「お前なんかいらねぇよ」と言ってきた張本人である。

出来れば顔も見たくないが、昨日の一件に関しては完全に自分の不注意に原因があるので、下手にスルーは出来ない。


「なんでしょうか」


私が落ち着いた口調でそう言うと、上司が言った。


「お前って確か、25だったな?」





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