最恐連続殺人犯「黒魔恐一」

みららぐ

0001


「お前、別にいらねぇよ」


課長に浴びせられた罵倒が、今でも頭の中をぐるぐる巡る。

もうすっかり暗くなってしまった帰り道。

私は、見慣れた静かな帰り道を独りとぼとぼと歩いていた。


確かに、今日の会社でのミスは私が悪かった。

膨大な量のデータを全部入力し終えたことに安堵して、その後の確認も確認した“つもり”で先輩に提出してしまい、ミスが発覚された頃にはもう既に手遅れ。

間違ったデータが取引先にそのまま渡ってしまい、取引先の社長が激怒で「もう取引しない!」とまで言われてしまった…。

それでも上司がすぐに取引先に謝罪に行ってくれて、取引終了はなんとか無事に免れたが…。

ところが上司が謝罪から帰ってきた直後、再度謝罪をした私に上司が放った言葉が冒頭のその言葉だった。


「いらねぇ」とか、そこまで言う?

確かに曖昧な確認で済ませた私が悪かったよ。全部、私が悪かったけどさぁ…。

……もう辞めちゃおうかな。

すると、ため息交じりでついそんなことを考えた時だった。


「!?…きゃっ」


街灯がチカチカ点滅している住宅街で、私は突如“誰か”にぶつかって勢いよくその場に崩れ落ちた。

たぶん、体格的に男性だろう。

一瞬だけ、グレーっぽいスーツが視界に入った気がする。

そう思いながらも、「痛いじゃないですか!」と、ぶつかってきたその人をキッと睨むように見上げる。


……しかし。


「っ…すみません!大丈夫ですか!?」

「…!!」


彼にまっすぐ見つめられたその瞬間、私は何だか体が硬直してしまって、まるで彼に私の全てを見透かされているような気さえ感じた。

染めていないツヤのある黒い髪。

切れ長の目がその前髪から覗き込むように、最初、私を捉えて離さなかった。

相手の男性は、凄く心配そうな、申し訳なさそうな顔をして私のことをまっすぐに見つめてきた。


わ、イケメン!

それに、思っていたよりも意外と若い。

もしかして、まだ20代前半…?

スーツを着ているということは、まだ社会人になりたてとかだろうか。


「え…ええ。だい、大丈夫よ。ありがとう」


私はそう言うと、思いのほか相手の男性が若くてイケメンな男性だったので、思わず照れるように笑みを浮かべる。

……けど。


「あ、あの…?」


一方の彼は、何故か私の目を見つめたまま、逸らそうとしない。

私が戸惑いながらそう呟くと、目の前の彼がハッとした顔をして言った。


「おっと、これは失礼」

「?」

「お姉さんがあまりにも綺麗だったので、つい見惚れていました」

「!」


彼はそう言うと、私の腕を引っ張って、私をその場に立ち上がらせた。


…平気な顔して凄いことを言うなぁ。

ま、イケメンだからいいけど。



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