第37話 夢を食む者と少年たちの銀河鉄道

 幼い兄弟の目の前には無数のご馳走か並べられていた。

長いテーブルに白いクロスがかけられている。

 ろうそくの明かりが料理たちを照らしている。

 嗅覚を刺激してやまない、料理の香りが漂う。

 カレーにハンバーグ、エビフライ、鶏の唐揚げ、とんかつ、コロッケ、ピラフ、ケチャップのたっぷりかかったフランクフルトなどなどである。

 熱々の料理たちは湯気を放ち、食べられるのを今か今かと待っているようだった。

 およそ子供が好むであろう料理の数々がそこにはあった。

 デザートも充実している。

 苺のショートケーキにシュークリーム、モンブラン、エクレア、などが山のようにつまれている。

 飲み物はコーラにオレンジジュース、甘いカフェオレなどが透明の巨大なビンに入れられ、並べられていた。


 六歳になったばかりの兄は一つ下の弟の小さな手を握りしめ、その料理たちをじっとみつめていた

最前からグーグーとお腹が盛大にその存在を証明していた。

 彼らはなぜ、このような場所にいるのか、まったくもってわからなかった。

 気がつけば、そこにいて、目の前にこれでもかと美味しそうな料理たちが陳列されていた。

 あまりの空腹のため、頭がうまくはたらかない。

 目眩がして、体がふらふらする。

 手足に力が入らない。


 弟が兄の手を振り払い、フランクフルトの棒を握りしめた。

 普段母親から、木の棒がついているものは禁止されているため、それは、はじめての経験だった。

 血色の悪い、小さな石のような手のひらでそれをつかむ。

 次に唐揚げを手でつかむ。

「お兄ちゃん、食べて良いよね」

 健気にも弟は兄の許可をもらおうとみつめる。

 兄の方も料理を食べたかった。

 なぜなら兄弟は長い間何も食べていなかったからだ。

「そ、そうだね」

 兄は骨付きのフライドチキンに手を伸ばす。


 だが、それは大人の強力な手によって遮られた。ぐいっとつかまれ、手を動かすことができない。

 兄は恐る恐る見上げると、そこには絵の具の白色のような肌をした男の顔があった。

 癖の強い黒髪の上に髪と同色のハンチングを頭に乗せ、糸のように細い瞳を少しだけ開き、彼の顔を見ていた。

 口には咥え煙草。

 白い煙がうっすらとたちのぼる。


 男は器用に煙草を落とさずに言った。

「君は食べてはいけない。食べるともう戻れなくなる。弟のほうもだ」

 そのくせの強い髪の男の言葉には不思議な力があった。

 兄弟はとてもお腹が空いていたが、料理を食べることをしなかった。

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