第38話 夢を食む者と少年たちの銀河鉄道②

 兄弟はやはり空腹には耐え切れず、また料理に手を伸ばそうとする。

 そのふたりの手をくせの強い髪の男は掴んで止める。

 兄弟がどんなに力を込めても手を動かすことはできない。

 万力で押さえ込まれているようだ。痛さのために、兄はカレーを食べようとしたスプーンを落とし、カランという金属音が鳴り響いた。


 涙目で兄は男の顔を見る。


 空腹で頭がおかしくなりそうなのに、それを強制的に阻止されている。

 いいようのない怒りがこみあげて、どうにかして料理を口にしたいが、体はまったく動かせない。

 男の冷たい目でにらまれると、ふにゃふにゃと体の力が抜けていく。

「僕、食べたいよ」

 弟が思わず、泣き言をもらすが聞き入れてはもらえない。

 兄は男の顔をきっと睨む。

その間にも弟は次々と料理を平らげていく。

「どうしてさ……」

 と兄はきく。

「ここの食べ物は餌だ。家畜を肥え太らすためのな。おまえたちはまだ戻れる可能性があるから食べてはいけない」

 くせの強い髪の男は首を左右に振る。

 それは、よく分からない回答だった。

 なぜ自分たちだけがこのような目にあうのか。


 紫煙をくゆらせながら、くるりと男は周囲を見渡す。

 何かを観察している鋭い眼光であった。

「おい、もうこれ以上ここにいるのはまずいぞ。奴らが待ちきれなくなっている。俺一人ならどうということはないが、君らはひとたまりもない」

 そういうと男はふっと煙草を吐きすてると両脇にそれぞれ兄弟を抱え、扉に向かって走り出した。

「えっ、食べたいのに」

 名残惜しそうに弟は言うが、ハンチングの男は完全に無視し、ドアを蹴破り外にでた。


 なにもない暗闇の空間を男はだまって走り続ける。

 そこはなにもない、ただの空間であった。

 はるか彼方でウーウーとどこか恨めしそうな声が聞こえてくる。

 男が走り抜けていくうちに、その声はだんだんと小さくなっていく。

 いったいどれくらい走ったのだろうか。

 皆目見当もつかない。

 十分なのか、一時間なのか、十時間なのか、一日なのか一週間なのか。

 時間の感覚はまったく、なくなっていた。

 

 やがて、うっすらとだか、電気の光が見えた。

 古い木製の電信柱についた電灯の下に彼らはいた。

 田んぼと田んぼの間にあるあぜ道だった。

 そこで、男は兄弟をおろす。

 冷たい、濡れた土の感触が足の裏をおかしていく。

「どうにか、注文の多いレストランから出ることができたな」

 そういうと男は、コートの胸ポケットから煙草を取り出すと、口に咥える。

 マッチもすらずに、一人でに火が着く。

 ふーとゆっくりと白い煙を吐き出す。

「さあ、もう少し歩くぞ。迎えが来ているからな」

 そう、男は言い、幼い兄弟の手をとった。

 幼い兄弟は男につれられ、薄暗い田舎のあぜ道をだまって歩いた。

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