第4話 起承転結の結

 状況を整理してみよう。

 批判的に思考してみる。


 私の部屋で、私が記憶を取り戻して初めての時。

 シンデレラはいた。タンスが開いていて、中から私のドレスが見えた。

 そして、記憶喪失になった顛末、お母さまが死んだことを、シンデレラから聞いた。

 そう…それが起承転結でいう起、だった。

 あのあと、起承転結でいうと承、で、シンデレラは「お姉さまたちが来てからこの家は変わった」と言った。


 でも、シンデレラは少なくとも、この家の正当な子女として認識されていなかった。手紙に彼女のことは書いてない。書いてあるのは私の名前だけ。娘は私だけ、と昔から外には認識されている。


 待って。よく考えると、シンデレラの服が私のおさがりなのも、シンデレラが後から来た人間だということを示している。


 シンデレラは確実に、嘘をついている。


 それでは、私がいじめたのはそもそも嘘なのか?これは嘘じゃない。使用人もそう証言しているし、私もその確信がある。


 つまり、シンデレラはいた。だけど、娘とお父さまやお母さまに認められたわけじゃなかった、だから舞踏会の手紙は私宛てのものだけだった。

 よく考えると、庶民のようなガラスの靴も、庶民のような汚い食べ方も、文字を読むのが得意でないのも、すべて貴族として生活していない証明のようなものだった。


 いじめていた理由、シンデレラがのろまだとか被害者面するとか、そんなこと以外の理由が今ならわかる。

 女が、血縁関係だと、お父さまの子供だと主張して家に入ってくる。お父さまは認めない。子供ではない、そんな覚えはない。お母さま一筋だと言う。女の言うこともお父さまの言うこともどちらが本当かはわからない。だけど、どちらが本当だとしても、シンデレラは私からすると侵略的庶民か、不倫の象徴なのだ。お母さまからするともっと複雑な感情を抱いていたに違いない。

 だからいじめてしまっていた。


 いじめるのは決していいことじゃない…だけど、この考えが真実なら、真実だと確信しているけど真実なら、いじめた気持ちに共感できる。

 お父さまがいなくて、悲しくて、使用人がいなくなって、自分が使用人のように働かなくては行けなくて、どんくさいシンデレラを抱えて、そのシンデレラのことが嫌いで。

 耐えられない。


 はっとして、私のタンスを開ける。


 記憶がないから確かなことは言えないけど、今日シンデレラが着ていった服は私のものでは?

 ぼろぼろなお古のドレスしか持っていないのに、きれいな服を着ていた。


 そう、シンデレラは嘘つきだ。


 もとからこの家にいて、私があとから来たかのように振舞っていた。


 なぜか。舞踏会のためだ。


 シンデレラは大きな勘違いをしている。えぴそーどきおく、というのはそのままの意味でエピソード、個人的な記憶のこと。だから、私の名前とか、この家に来て長いこととかは、分かっている。


 騙せると思ったんだ。

 私が記憶喪失だと聞いて、お医者さまにも相談して、私が私の名前と由来を思い出さなければ。

 シンデレラは舞踏会に行ける。

 それだけじゃない。


 そのことに気づいて愕然とする。それだけじゃない。

 使用人はお父さまが亡くなってから来ていて、この家に詳しくない。

 お母さまのお葬式には私は言っていないけど、喪主とかの仕事の連絡があったはず。その仕事が延滞している、とか、倒れているそうですがお葬式には来れますか、という連絡がない。


 舞踏会や、社交の場、お葬式に使用人からの理解。家の内情に詳しくないものからしたら、『そこに出席して、名乗り、振舞うシンデレラこそ、家の正当な娘』に見える。


 私宛ての舞踏会にシンデレラが何の連絡もなしに向かう、それが証拠だ。

 私を、皆を騙して。

 私がシンデレラに、シンデレラが私に、入れ替わったのだ。


 あまりのことに部屋を行ったり来たりしながら考えるけど、記憶のない私に、舞踏会へ行って、私こそが本物だ、ということに意味がない。

 シンデレラが何回も舞踏会へ素知らぬ顔で行っている時点で、舞踏会の人々からしたら違和感がなかった、ということだ。私はもともと社交的ではなかったのだろう。

 社交的であれば、入れ替わりを防げたかもしれないのに、と思ったところで、


「交流を持つのは大切なことです。」


とシンデレラが言ったことを思い出す。


 交流は大切だ。入れ替わった事実に気づけるから。あの言葉は、そういう意味だったのだろうか?

 皮肉か?被害者面をして。なんの罪もないような顔をして。


 いまや何を考えても仕方がなかった。行動しなければ。


 シンデレラの部屋へ、暗い道を進む。

 部屋のゴミ箱には、文字を書くのに失敗したのか、下書きの手紙が入っている。


「遺産の相続、完了しました…」


 その文字列を見て、私は運命を悟った。

 シンデレラが遺産を相続した。私じゃない。私のぶんはない。なぜなら私こそが『シンデレラ』の立場になってしまったから。


 12時の鐘が遠くで鳴る。

 シンデレラが帰ってくる。ガラスの靴をはいて。


 話し合えば理解しあえる?無理だ。嘘をついた時点で、シンデレラは私を騙すつもりだった。都合が悪くなれば、何をしてくるか分からない。

 荷物をまとめる。

 この行動は、シンデレラにとっての、物語の結びになるだろう。継姉は去り、舞踏会で成功し、悠々と家に帰ってくる。

 シンデレラの家だ、私の家ではもはやない。


 私は敗北者のように、ガラスの靴から逃げる。

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シンデレラストーリー 立方体恐怖症 @LunaticHare

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