第3話 起承転結の転
悪い子じゃない。むしろ良い子。
だけど、
「あのね、怒っているわけじゃないから」
被害者面をするのだ。
「どうして私の服にまでごはんを飛ばすことができるのか聞いてるの」
「ごめんなさいスープをこぼしちゃって」
ごはんを食べる時、お母さまはシンデレラは立っておきなさい、と命令したらしいけど、その気持ちがよくわかる。動かないでほしい、面倒が増えるから。
いらいらして物にあたりたくなる。だけどそう感じるたびに、前私シンデレラをいじめていた、その幻覚が引き起こされる気がして踏みとどまれる。
状況関係なくいじめたりはしない、と言ったけど、本当に?
お父様が死んで余裕がなくなっていたら暴力をふるっていてもおかしくなかった。
実際どうなのか怖くて聞きたくもない。
「ちょっと声が大きくなっちゃってごめんなさい。食べましょ」
正直、いくら可愛いとはいえ限界だった。
未来への不安がつのる。この先どうなるのか何も知らされていなくて怖い。
今日はなんだか、シンデレラがそわそわしている。
「お姉さま、私このあと舞踏会があるの。言わなかったかしら」
「…元気ね。この間も行ってなかった?」
私は、この家にたまっている書類やら手紙やらを読み直すので精一杯なのに。
「交流を持つのは大切なことです。」
「私宛ての知らせはなかったの?また?読み飛ばしていない?」
なかったです、とシンデレラは笑顔で食べ続ける。
もう少し残念そうにしてほしいのはわがままだろうか。
なんにせよ、一か月ほど暮らしてきて、シンデレラをいじめた過去の自分をよく理解できる。
「私は文字を読むのが苦手なので家についてのお手紙はお姉さまにお任せしますね」
私は手紙を読んで、シンデレラは舞踏会へ。なんだか不公平に感じる。
「でも、お姉さまは失ったのは『えぴそーどきおく』だけだっておっしゃってましたもの」
「昔本を読むのが得意だったんだから、お任せすべきだと思いました」
それはそうなんだけど、特に罪悪感なく踊って帰ってくるのが不愉快。
見た目が可愛いぶん、行動が可愛らしく感じられないのが苦しい。
それじゃあ、とシンデレラが出ていくのをいつものように見送ろうとして――
「待って、あなた靴どうしたの」
ガラスでできている靴。派手なスカートは少し短くて足先が見えてしまう。
「え?きれいじゃないですか?」
「庶民用の靴よそれ。いつもそれで行ってたの?信じられない」
そんなに言わなくても、半透明できれいですよ、と言うけど、危ないしみっともない。
「私のを貸してあげるからそれで行くのはやめなさい」
「昔から気に入って履いているのでいやです」
昔から?私はそんな靴しか履くのを許さなかったのか。
「恥ずかしいからやめて」
と言うのに、シンデレラはちょっと機嫌が悪くなったまま出て行ってしまった。
「12時には帰りなさいよ」
止める元気がなく、玄関に立つ。
「はあ…」
自分でもこの不安感と苛立ちをどうしたらいいか分からない。
料理はもう下がっていて、キッチンは暗い。
シンデレラが座っていた足元をよく見ると、やはり、また料理がこぼれている。
「ねずみが沸くから拾っておいてって言っているのに」
毎回結局落ちたものを拾うのは私。ねずみは可愛いじゃないですか、とかよくわからないことを言うから。
とはいえ、シンデレラを良く思わなくなってきたからこそ、12時までの一人の時間は大切だ。
火が消えてしまって、ほぼ真っ暗な廊下を上がる。体が覚えているようで、暗くても部屋を間違えることはなかった。
私は静かでいらいらすることのない、書類を読む仕事のために、お母さまがいたと思われる手紙だらけの部屋へ入った。
昔のものから書類を読み続け、今日ついに、お父さまではなくお母さま宛ての手紙を読むことになった。
土地の管理やら、お父さまが死んでしまった時の手続き。
何が起きたのかは書類では分からないけど、死んでしまったお父さま。もう覚えていない父親。
お父様が死んでしまって、数日経ってから、使用人を全員解雇した、という書きかけの手紙。おそらくお母さまが書いたものだけど、その手紙が何を示しているのか分からない。
全員解雇したならおそらく、今の使用人はお父様が死んだあと雇われたもの。あまりここで過ごしていないようだったし、お父様はなぜ死んだのか、聞いても分からないだろう。
葬式の書類。私の名前だと思われるものと、お母さまの名前。…シンデレラの名前はない。葬式に出ることを許されなかった?
でも、確かに、私の名前が連名されている書類に、もう一人分の名前はなかった。私が読んだどの書類にも、シンデレラの所在が書かれていない。
なんとなく、シンデレラはもっと昔からいるものだと思っていたけど、最近来たのかもしれない。お父さま宛ての手紙で存在していないのなら、お父さまが娘として世間に知らせていないということになる。でもシンデレラ宛ての舞踏会の知らせがあるのだから、お父さまが死んでから、シンデレラがやってきた。
お父さまがいないのに娘だという証明ができたのかしら。
違和感を感じつつ、重要そうな、私宛ての手紙を見つける。
お母さまの葬式についてのお知らせ。私はたぶん寝ていたから参加できなかった。おそらく。
つまり、この手紙の頃にお母さまが死んだ。
でも、この葬式の手紙にもシンデレラについての言及がない。とことんシンデレラが嫌いで隠し通していたのだろうか。
そういえば、シンデレラのお母さまについて聞いたことがなかった。生まれが良くなかったとか保証されていなかったとかそんなとこかもしれない。食べ方も汚いし、文字も読むのが遅いし。子供としてお母さまが認めなかったのかも。
そうだとしたら、私はともかくお母さまがシンデレラをいじめた理由も分かる。得体の知れない女が、夫の子供を名乗ってきて、その保証はなく、なんだかんだとしているうちにお父さまも死んだ。
シンデレラはいつ家に来たのか?分からない。
そもそも、私はあの子のことをまったく知らない。記憶喪失だから仕方ないけど。
不気味。
意味のない、私宛ての舞踏会の知らせを読み飛ばす。なぜなら、私はおそらくこの間寝ていて、行くことができなかったから。
土地についての、私宛ての書類もでてきたところで、ついに書類の山がなくなっていた。
読み切った。達成感を得つつ、大事そうな書類を持ち上げようとしたとき、重なっていた舞踏会の知らせが一枚、落ちた。
読み飛ばしていたけど、なんとなく、内容を読む。
「え?」
その日にちは、今日。
やはり、私宛て。シンデレラに向けているものじゃない。
どういうこと?
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