俺の声が敵の切り札!?だったら全員まとめてぶっ潰す!

「同時に……三つの**『声』**だと?」


シグナの声に、全員が息を呑んだ。

広場の中央に据えられた旧式の**『声導具』**から、三方向に裂けるように放送が重なって響いていた。


『我々は孤立している。仲間を求める――』

『この放送は王家の命令に基づくものである――』

『南部の生存者は危険だ。排除せよ――』


どれも、レンジの声。

だが抑揚や息遣いが微妙に異なり、まるで別人の心が同じ肉声を通して語っているようだった。


「ぜんぶ……僕の声……?」

レンジは青ざめ、喉を押さえる。


私は耳を澄ませる。

どれも本物のように聞こえるのに、胸の奥がざわめく。

“盗まれる感覚”。私の呪いと同じ、冷たい手が声を引き裂いて操っている。



群衆の混乱は一瞬で燃え広がった。


「最初の声だ! 孤立してるんだ、助け合うしかない!」

「いや二つ目が正しい! 王家の命令に逆らうな!」

「三つ目を信じろ! 裏切り者を排除しろ!」


老人が杖を突きながら「従え」と叫ぶ。

若者が血走った目で「共に立ち上がれ」と反論する。

怯えた母親が子どもを抱えながら「排除しろ!」と声を上げる。


叫びは次々とぶつかり合い、石が飛び、誰かが倒れる。

助けようと伸ばされた手が殴られ、怒りが伝染していく。

沈黙よりも恐ろしい“分裂”が、今まさに形をとり始めていた。


私は喉を押さえた。

救いのための声が、呪いのように人を裂いていく――。

それは、声を奪われてきた私自身の痛みと重なった。



「やめろ!」ノイズが必死に人波へ走ったが、押し返される。

シグナが解析盤を睨み、低く告げた。

「ただの模倣じゃない。声の内容を変質させ、レンジの声で流している。狙いは……人々を分断することだ」


ユキは震える唇をかみしめながら呟いた。

「“沈黙の雷”で最新の**『魔導具』**は死んだ。でも旧式の回路は生き残った……だから、今一番響くのは――レンジの声……」


その事実に、レンジは膝をつきかける。

「僕の声が……人を争わせてる……?」


彼の呟きに、胸が締めつけられた。



その時、マルが群衆をかき分けて叫んだ。

「戦おうよ! 奪われっぱなしで終わりなんてごめんだ!

私たちの**『本物の声』**で、正しいことを叩き込むんだ!」


私は息を吸い込み、彼女に続いた。

「……私も戦う。自分の**『声』**を、もう偽物に縛られたくない!」


ノイズも歯を食いしばって頷く。

「音で攻撃できるなら、俺にだってやれることはある!」


シグナは冷静に宣言した。

「戦術は私が組む。偽りの声を上書きする“本物”を届ける。そのために技術を尽くす」


ユキも拳を握りしめる。

「怖いけど……今度は私の声で、誰かを守る!」



レンジは立ち上がり、震える手で**『声導管』**に触れた。

瞳にはまだ迷いが残っていた。

けれど、その奥には確かな光が灯っていた。


「奪われたなら、奪い返す。俺は……俺の声を取り戻す!」


その瞬間、私たちは初めて自分たちの放送に名を与えた。


《この声だけが、世界に届いている》


――それが、“声の戦争”の幕開けだった。

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2026年1月12日 17:00
2026年1月13日 17:00
2026年1月14日 17:00

声が出せない呪われた吟唱巫女ですが、ハイスペックな天才軍師から『君の本物の声を取り戻してやる』と激甘溺愛され、沈黙の世界を【最強の歌声】で救うようです 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった @marineband14

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