もう君の声を盗ませたりしない。だって、君は僕の『本物の声』を見つけてくれたから

私たちは、残響の余波を逃れ、地上へ戻った。


けれど、街はまだ沈黙していた。

空は暗く、街灯も消えたまま。

人々は互いに顔を見合わせるだけで、言葉を交わすことを恐れているようだった。


「僕たちの声は……届かなかったのかな」


レンジが、不安そうに呟いた。

確かに、彼の声は残響を揺らし、人々に一瞬の光を見せた。

けれど、その勝利は、まだ世界全体を照らすほどではなかった。


ノイズは岩窟に戻るとすぐに機材の調整を始めた。

マルは少し沈んだ表情で、足元の雷を消していた。

シグナは無言で解析魔導書を読み返している。


「大丈夫だよ、レンジ。きっと、届いてる」


私はそう言った。

私たちの放送が世界にどんな影響を与えたのか、まだ誰も知らない。

けれど、確かにあの瞬間、人々の胸には揺らぎが生まれていた。

沈黙を破る小さな兆しは、確かにあったのだ。


その夜、私は岩窟の入り口で、一人星空を見上げていた。

沈黙に満ちた夜空は、いつも以上に星が輝いていた。


「……あや」


レンジが、私の隣にやってきて座った。


「眠れない?」


「うん。……なんだか、怖くて」


私は、正直に答えた。


「まだ、私の声が『盗まれる』んじゃないかって。

この静かな夜に、私の声がどこかで響いているんじゃないかって、不安になるんだ」


「……そっか」


レンジは、何も言わずに、ただ私の隣にいてくれた。

その沈黙が、私には何よりも心強かった。

彼の隣にいれば、たとえ世界が沈黙していても、私は一人ではない。


「……ねえ、あや」


しばらくして、レンジが口を開いた。


「僕、一つだけ、わかったことがあるんだ」


「何?」


「僕の声が『本物』だって、どうして君はすぐにわかったんだ?」


「それは……」


言葉に詰まる私に、レンジは続けた。


「僕自身、自分の声を『本物』だなんて、自信がなかった。

でも、君が僕の声を聞いて、心を震わせてくれた。

だから、僕の声は、本物になったんだ」


彼はそう言って、優しく微笑んだ。


「ありがとう、あや。君がいてくれたから、僕は『本物の声』を見つけられた。

だから、もう君の声を『盗ませたり』しない。絶対に、守るから」


レンジの言葉は、私の心を温かく包み込んだ。


この世界は、まだ沈黙している。

けれど、私の心には、確かな光が灯っていた。


レンジの声が、私を救ってくれたように。

今度は、私が、彼の声を、そして彼の心を、守る番だ。


それは、私自身の呪いを、本当の力に変えるための、新たな旅の始まりだった。

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