偽物の声が街を操る!?――本物を証明するのは俺たちの放送しかない

「……聞こえる?」


ノイズがアンテナを叩きながら眉をひそめた。

岩窟の放送室に流れ込んできたのは、レンジの声だった。

だが私たちはまだ放送のスイッチを入れていない。


「そんなはずは……」

レンジが青ざめ、唇を噛む。


外の旧式スピーカーから、確かに彼の声が響いていた。

だがその内容は――


『市街地北部は危険だ。住民は南部に集まれ』

『異端者を発見した者は報告せよ。王家の命令である』


冷ややかな響き。息遣いのない調子。

それは、あの夜私が呪いに絡め取られた時に感じた、声を“盗まれる”感覚と同じものだった。


「……僕じゃない」

レンジの肩が震える。

「これは……完全に奪われた僕の声だ」



街のざわめきが外から押し寄せてくる。

広場に集まった人々が、その放送を“本物”だと信じて動き始めていた。


荷物を抱えて北から逃げる者。

「王家の命令だ」と叫び、異端者狩りに走る者。

疑い、怒鳴り合い、つかみ合う声が次々と重なっていく。


「これじゃ……」ユキの声が震えた。

「私たちが必死に積み上げたものが、全部偽物に上書きされちゃう……。レンジの声そのものが、信用を失う……」


シグナは解析盤に手をかざし、冷静に言った。

「偽物は旧式の声導具を乗っ取って流されている可能性が高い。沈黙の雷で制御は死んだはずなのに、あれだけ精巧に模倣できるのは……内部に通じている者がいる証拠だ」


「中枢に食い込んでる奴がいる、ってことか」

ノイズが低く唸り、発電機を強く叩いた。



その時、窓の外で怒号が弾けた。

「北へ行け! 命令だ!」

「ふざけるな、南に集まったら飢えるぞ!」

「異端者を見つけろ!」


人々の声は三つに裂かれ、互いを押しのけていた。

やがて石が飛び、殴り合いが始まる。

偽の声は、人々を一瞬で争いへ駆り立てていた。


私は喉を押さえた。

胸の奥から声がひきつれ、また“盗まれる”あの感覚が忍び寄ってくる。

――声を利用される。奪われる。

恐怖で声を閉ざしたくなる。


けれど、その時レンジが立ち上がった。

「……もう待ってられない」

彼の拳は震えていたが、その瞳には確かな光が宿っていた。

「偽物が流す声よりも先に、本物を届けるんだ。俺の声で、俺自身を証明する」



マルが勢いよくスイッチに手を伸ばす。

「いいじゃん! 偽物より本物の方が絶対に熱い! あたしも全力で盛り上げてやる!」


ノイズが歯ぎしりしながら発電機を叩き起こし、轟音が部屋に響いた。

シグナは冷静に操作盤を操り、干渉波を切り裂く回路を走らせる。

ユキは震える手で原稿を抱き、必死に言葉を整えていた。


私は胸に手を当てた。

呪いに縛られたこの声でも、きっと……。

「レンジ、私も朗読を重ねる。あなたの声に寄り添えば、必ず伝わるはず」


レンジは深く息を吸い、声導管に口を寄せた。

その瞳には、迷いを振り払うような強さがあった。


「……俺が本物だ。偽物に騙されるな!」



広場のざわめきが、一瞬止まった。

嘘に覆われた波が、かすかに揺らぎ始める。


「俺は人を追い立てるために声を出したんじゃない! 生きてる証を届けたくて……仲間を呼ぶために声を使ったんだ!」


私は朗読を重ねた。

「声は人を裂くためじゃない。繋ぐためにある!」


マルが雷を散らして叫ぶ。

「本物を聴け! 偽物に負けるな!」


ユキは涙をこらえながら声を重ねる。

「……これが、私たちの声!」


ノイズの機材が火花を散らし、シグナの符が声を拡散させる。

全員の力が重なり、広場全体に一つの“響き”が走った。


やがて、群衆の中から誰かが崩れ落ちるように叫んだ。

「……違う、これが本物だ……!」


次々と石が落ち、拳が下ろされていく。

争いはすぐには消えない。けれど、人々の耳には確かに“差”が届いていた。



レンジは拳を握りしめ、声導管から顔を上げた。

「偽物に惑わされるな。俺たちの本物の声で、世界を取り戻す」


その言葉は仲間全員の決意をひとつにし、沈黙を震わせた。

偽りと真実のせめぎ合い――声の戦争は、ここから本格的に始まるのだ。

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