声が出せない呪われた吟唱巫女ですが、ハイスペックな天才軍師から『君の本物の声を取り戻してやる』と激甘溺愛され、沈黙の世界を【最強の歌声】で救うようです
偽物の声が街を操る!?――本物を証明するのは俺たちの放送しかない
偽物の声が街を操る!?――本物を証明するのは俺たちの放送しかない
「……聞こえる?」
ノイズがアンテナを叩きながら眉をひそめた。
岩窟の放送室に流れ込んできたのは、レンジの声だった。
だが私たちはまだ放送のスイッチを入れていない。
「そんなはずは……」
レンジが青ざめ、唇を噛む。
外の旧式スピーカーから、確かに彼の声が響いていた。
だがその内容は――
『市街地北部は危険だ。住民は南部に集まれ』
『異端者を発見した者は報告せよ。王家の命令である』
冷ややかな響き。息遣いのない調子。
それは、あの夜私が呪いに絡め取られた時に感じた、声を“盗まれる”感覚と同じものだった。
「……僕じゃない」
レンジの肩が震える。
「これは……完全に奪われた僕の声だ」
◆
街のざわめきが外から押し寄せてくる。
広場に集まった人々が、その放送を“本物”だと信じて動き始めていた。
荷物を抱えて北から逃げる者。
「王家の命令だ」と叫び、異端者狩りに走る者。
疑い、怒鳴り合い、つかみ合う声が次々と重なっていく。
「これじゃ……」ユキの声が震えた。
「私たちが必死に積み上げたものが、全部偽物に上書きされちゃう……。レンジの声そのものが、信用を失う……」
シグナは解析盤に手をかざし、冷静に言った。
「偽物は旧式の声導具を乗っ取って流されている可能性が高い。沈黙の雷で制御は死んだはずなのに、あれだけ精巧に模倣できるのは……内部に通じている者がいる証拠だ」
「中枢に食い込んでる奴がいる、ってことか」
ノイズが低く唸り、発電機を強く叩いた。
◆
その時、窓の外で怒号が弾けた。
「北へ行け! 命令だ!」
「ふざけるな、南に集まったら飢えるぞ!」
「異端者を見つけろ!」
人々の声は三つに裂かれ、互いを押しのけていた。
やがて石が飛び、殴り合いが始まる。
偽の声は、人々を一瞬で争いへ駆り立てていた。
私は喉を押さえた。
胸の奥から声がひきつれ、また“盗まれる”あの感覚が忍び寄ってくる。
――声を利用される。奪われる。
恐怖で声を閉ざしたくなる。
けれど、その時レンジが立ち上がった。
「……もう待ってられない」
彼の拳は震えていたが、その瞳には確かな光が宿っていた。
「偽物が流す声よりも先に、本物を届けるんだ。俺の声で、俺自身を証明する」
◆
マルが勢いよくスイッチに手を伸ばす。
「いいじゃん! 偽物より本物の方が絶対に熱い! あたしも全力で盛り上げてやる!」
ノイズが歯ぎしりしながら発電機を叩き起こし、轟音が部屋に響いた。
シグナは冷静に操作盤を操り、干渉波を切り裂く回路を走らせる。
ユキは震える手で原稿を抱き、必死に言葉を整えていた。
私は胸に手を当てた。
呪いに縛られたこの声でも、きっと……。
「レンジ、私も朗読を重ねる。あなたの声に寄り添えば、必ず伝わるはず」
レンジは深く息を吸い、声導管に口を寄せた。
その瞳には、迷いを振り払うような強さがあった。
「……俺が本物だ。偽物に騙されるな!」
◆
広場のざわめきが、一瞬止まった。
嘘に覆われた波が、かすかに揺らぎ始める。
「俺は人を追い立てるために声を出したんじゃない! 生きてる証を届けたくて……仲間を呼ぶために声を使ったんだ!」
私は朗読を重ねた。
「声は人を裂くためじゃない。繋ぐためにある!」
マルが雷を散らして叫ぶ。
「本物を聴け! 偽物に負けるな!」
ユキは涙をこらえながら声を重ねる。
「……これが、私たちの声!」
ノイズの機材が火花を散らし、シグナの符が声を拡散させる。
全員の力が重なり、広場全体に一つの“響き”が走った。
やがて、群衆の中から誰かが崩れ落ちるように叫んだ。
「……違う、これが本物だ……!」
次々と石が落ち、拳が下ろされていく。
争いはすぐには消えない。けれど、人々の耳には確かに“差”が届いていた。
◆
レンジは拳を握りしめ、声導管から顔を上げた。
「偽物に惑わされるな。俺たちの本物の声で、世界を取り戻す」
その言葉は仲間全員の決意をひとつにし、沈黙を震わせた。
偽りと真実のせめぎ合い――声の戦争は、ここから本格的に始まるのだ。
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