突入してきたのは嵐みたいな少女!?――その声に隠された過去を、私は初めて知った

その日、岩窟の放送室は異様な緊張に包まれていた。

私たちはついに、シグナが組み上げた逆探知術式を本格的に稼働させる準備をしていたのだ。

「この魔導波形を放てば、傍受している奴らが反応する。位置を割り出せるはず」

シグナが冷静に告げる。ユキは原稿を抱きしめ、レンジは声導管の前で深呼吸を繰り返していた。


ノイズが発電機を叩き、唸るように言った。

「よし、準備は整った。あとは声を流すだけだ……」


その時――。


ガンッ!


放送室のドアが勢いよく開け放たれた。

「よーし! 退屈だから来てやったぞ!」

金髪を揺らして飛び込んできたのは、仲間のマルだった。


「ちょっ……お前、いきなりドア蹴飛ばすなよ!」ノイズが慌てる。

マルは悪びれる様子もなく、にかっと笑って手を振った。

「細けぇことは気にすんなって! ほら、緊張してる空気をぶっ壊してやったんだよ!」


私は呆れながらも、その明るさに胸が軽くなるのを感じた。

確かにマルは嵐のようにうるさくて唐突だけれど、その熱量がこの場の張り詰めた空気を和らげるのも事実だった。


「……マル。君はどうして、あの日あの影に立ち向かったの?」

私はずっと気になっていたことを、思い切って口にした。


マルは一瞬黙り、珍しく真剣な顔をした。

「……あたしさ、元々は“力の運び屋”だったんだよ。街の端から端まで、荷物も人も、声だって運んだ。

でも“沈黙の雷”が落ちた夜、仲間の声が……全部消えた。呼び合う声も、歌う声も、一瞬で」


彼女は足元の発電具を踏み鳴らし、小さな火花を散らした。

「だから思ったんだ。誰かが声を上げてるなら、走ってでも届けてやらなきゃって。

その時に聞いたのが、レンジの声だった。あんたらが“まだ声は生きてる”って教えてくれたんだよ」


レンジが驚いたように目を見開いた。

「……じゃあ、あの時から」

「そう。だから今度は、あたしが運ぶ番だろ? 沈黙に飲まれた世界に、“本物の声”を叩き込むんだ」


彼女の言葉は、冗談めかした調子とは裏腹に、鋭い決意を帯びていた。

ユキが小さく微笑む。

「……うるさいけど、心強いね」


「うるさいは余計だ!」マルはわざと大げさに叫んでみせた。

その声に、皆の緊張がふっと緩む。


だが次の瞬間、シグナの手が止まった。

解析盤に映る波形が、異様な歪みを示していたのだ。


「……誰かが、すでにこちらの逆探知に気づいている」

シグナの声は冷え切っていた。


ノイズが眉をひそめる。

「罠か……」


マルはにかっと笑って肩をすくめた。

「上等じゃん。だったら、こっちも派手にぶちかますだけだろ?」


その笑みは嵐のように明るかった。

だが私は見逃さなかった。

その奥に、沈黙の夜に声を失った仲間たちへの痛みが、確かに潜んでいることを。


――マルはただの騒がしい少女じゃない。

彼女の声は、誰よりも沈黙の痛みを知っているからこそ、誰よりも強く響くのだ。


そしてその声は、今まさに始まろうとしている“声の戦争”に必要不可欠な力になる。

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