僕の声に似た放送?いや、それは盗まれた“声”そのものだった

私たちは、ノイズの岩窟を「声の一座」の拠点とした。


レンジが「魔力車輪」で魔力を生み出し、私は声導管に共鳴を与える。

ノイズは壊れた部品を拾い集め、古代の回路を組み直す。

少しずつ形になっていく放送は、まだ不完全で途切れ途切れだったけれど――沈黙に覆われた世界に確かに小さな響きを取り戻し始めていた。


「……聞いている誰かがいたら、返事をください」

レンジは放送の最後に必ずそう呼びかけた。

けれど返答はまだ一度もなかった。


沈黙の街に、声が届く日は来るのだろうか――そんな不安が胸をよぎった矢先のことだった。



「レンジ、あや! ただ事じゃねえ!」

息を切らせて駆け戻ってきたノイズが抱えていたのは、壊れかけの「魔導放送水晶」だった。

ひび割れた表面が淡く脈打ち、そこからかすかな声が漏れている。


『……これは国の公式放送である。従わぬ者は異端とみなし、速やかに報告せよ』


その瞬間、レンジの顔が蒼白に染まった。

「な……これ、僕の声……?」


確かにそれはレンジの声だった。

だが、私にはすぐに分かった。――あれは“似せた”ものではない。私の呪いと同じように、声そのものを“盗み取った”響き。


「これはコピーじゃない。あなたの声を奪って、操ってる」


私が言うと、レンジは悔しそうに拳を震わせた。

「……わかる。僕の声にない、冷たい歪みが混じってる」


ノイズは水晶を睨みつけ、低く吐き捨てた。

「ただの模倣じゃねえな。俺が修理した回路に残ってた歪みと同じだ。誰かが直接“声”を盗み、加工してる」



胸が冷たくなった。

沈黙を破ろうとしているのは私たちだけじゃない。

その裏で――声を奪い、操り、支配しようとする者が確かに動いている。


レンジは額に汗をにじませ、水晶に向かって叫んだ。

「ふざけるな! これは僕じゃない! 偽物だ!」


けれど、水晶から流れる“もう一人のレンジ”の声は止まらない。

『沈黙に従え。声を上げるな。それが唯一の救いだ』


その冷たい響きは、私たちの放送の真逆だった。

声をつなぐのではなく、声を断つための声。


私は喉を押さえた。

――これが人々の耳に届いたら、どれほど恐ろしいことになるだろう。

沈黙の世界に、さらに深い沈黙が押し寄せる。


「……私たちの声は、もう聞かれてる」

かすれる声でそう言うと、ノイズが頷いた。

「そして狙われてもいる。遊びじゃねえ、これは戦いだ」


レンジは震える手で声導管を掴んだ。

その瞳に、悔しさと決意の光が宿っていた。

「なら、証明するしかない。本物の声がここにあるってことを」


沈黙の雷が壊したはずの世界で、再び“声の戦い”が始まりつつあった。



私は胸に手を当て、深く息を吸った。

呪いに縛られたこの声でも――必ず響かせてみせる。

偽物に奪わせたりしない。


こうして、私たちは初めて“声を奪う敵”の存在を知った。

それはただの偶然や自然現象ではなく、意図的に仕組まれた“声の罠”だったのだ。

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