沈黙の街に、小さな放送が生まれた
夕暮れの広場に、古びた声導管の灯がともった。
レンジは魔力車輪を必死に回し、壊れた回路を繋ぎ直していた。
私はその隣で、震える指を胸に当てて座っていた。
「もう一度だ。今度は……届いてくれ」
レンジが呟き、送信の符を叩いた。
ノイズ混じりのざらついた響きが、街へと流れ出していく。
『……誰か、聞こえている人がいたら、返事をください』
その声はまだ弱々しかった。
けれど沈黙だけに支配されていた街にとっては、雷鳴にも似た響きだった。
◆
私は喉を押さえた。
放送の声に共鳴して、胸の奥で呪いがざわめく。
私も声を出したい。けれど、出せば必ず歪んでしまう。
それが怖くて、唇を噛みしめた。
「……無理しなくてもいい」
レンジが小さく言った。
「君は、黙っているんじゃなくて、必死に声と戦ってるんだ。俺にはそれが分かる」
その言葉に、胸が熱くなった。
“分かってくれる人”がいる。
それだけで、涙がにじんだ。
◆
ノイズが強まり、回路が火花を散らした。
レンジは慌てて魔力車輪を止め、煙を振り払う。
「……くそっ、やっぱり安定しない」
私は思わず、彼の腕を掴んでいた。
伝えたい言葉があった。
「やめないで」――そう声に出したかった。
けれど喉がひきつり、代わりに低い唸りが漏れてしまう。
「……っ」
私は絶望して俯いた。
だがレンジは優しく微笑み、私の手を握り返した。
「ありがとう。君がそう思ってくれてるって、ちゃんと伝わった」
◆
その時だった。
広場の端で、小さな影が動いた。
壊れた建物の隙間から、誰かが顔をのぞかせていた。
私たちの放送に気づいたのだろう。
だが目が合うと、その人影はすぐに逃げ去った。
「……今の、見た?」
レンジが驚きに目を輝かせる。
「やっぱり届いてるんだ。返事はなくても、誰かが確かに耳を傾けてた」
私の胸が震えた。
声は奪われるものだと思っていた。
でも、届けることもできるのだ。
◆
沈黙の街に、小さな放送が生まれた。
それはまだノイズにまみれ、か細く、不安定なものだった。
けれど確かに、人と人を結ぶ“糸”が張られた瞬間だった。
私は胸の奥で小さく誓った。
――もう一度、声を取り戻す。
偽物でも、奪われたものでもない。
自分の、本当の声を。
レンジが隣で呟いた。
「ここから始めよう。必ず広げてみせる」
その言葉は、沈黙を少しだけ揺らした。
私たち二人の声が重なり、未来へと響き始めた。
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