呪われた私の声と、諦めない彼の声

翌朝、私は再び広場へ足を運んでいた。

自分でも理由はうまく説明できなかった。

ただ、昨日聞いた“声”が胸の奥でまだ震えていて、その響きをもう一度確かめたかったのだ。


広場ではすでにレンジが魔力車輪を回し、古びた回路をいじっていた。

彼は寝不足の顔をしながらも、どこか楽しげだった。


「おはよう。来てくれると思ってた」


私は頷き、隣に腰を下ろした。

けれど喉が強張り、声は出ない。

返事の代わりに、小さく掌を胸に当てた。


彼はそんな私を見て、少しだけ考え込むような顔をしてから笑った。

「君が言葉を出せなくても、ここにいるだけで十分だよ」



レンジの手元では、放送の準備が進んでいた。

壊れかけの声導管に魔力を流し込み、途切れがちな電流を必死に繋いでいる。

機械はしばしば火花を散らし、ノイズを撒き散らしては止まった。


「沈黙の雷でほとんどの回路は壊された。けど……残った古い装置を拾い集めれば、なんとかなるかもしれない」

彼はそう言いながら、また別の部品をはめ込む。


私はその横顔を見つめていた。

自分の声を恐れ、出せずにいる私とは違う。

彼は声を信じ、どんなに壊れた世界でも諦めずに声を届けようとしている。



試験放送が始まった。

声導管からレンジの声がかすかに広場へ響く。


「……誰か、聞こえていたら、返事をしてほしい」


石造りの建物に反響して、声が幾重にも重なって返ってくる。

人々の影が遠くに見えたが、誰も応答はしない。

扉が固く閉ざされ、窓の隙間からのぞく瞳はすぐに引っ込む。


沈黙は厚い壁のように街を覆っていた。


レンジは一度目を閉じ、深く息を吸った。

「……返事がなくてもいい。放送を続ける。

声が途切れなければ、きっとどこかで届く」


その言葉に、胸が熱くなった。



私は思わず声を出そうとした。

けれど呪いが喉を締めつけ、響きは別の言葉に歪みそうになる。

「……っ」

震える唇から出たのは、かすれた音だけ。


恐怖に目を伏せた私の肩を、レンジがそっと支えた。

「無理しなくていい。君の声は、奪われるものじゃない。必ず“本物”として響かせられる時が来る」


彼の瞳はまっすぐだった。

その強さに、心が少しだけ軽くなった。



沈黙の雷が残した街。

声を失った私。

声を届けようとする彼。


二つの孤独が重なったとき、初めて小さな希望の音が生まれた。

私はそれを聞き逃さないように、胸に手を当てて深く息を吸った。


――声を恐れるだけじゃなく、いつか必ず声を取り戻す。


その決意が、ゆっくりと芽生え始めていた。

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