呪われた私の声と、諦めない彼の声
翌朝、私は再び広場へ足を運んでいた。
自分でも理由はうまく説明できなかった。
ただ、昨日聞いた“声”が胸の奥でまだ震えていて、その響きをもう一度確かめたかったのだ。
広場ではすでにレンジが魔力車輪を回し、古びた回路をいじっていた。
彼は寝不足の顔をしながらも、どこか楽しげだった。
「おはよう。来てくれると思ってた」
私は頷き、隣に腰を下ろした。
けれど喉が強張り、声は出ない。
返事の代わりに、小さく掌を胸に当てた。
彼はそんな私を見て、少しだけ考え込むような顔をしてから笑った。
「君が言葉を出せなくても、ここにいるだけで十分だよ」
◆
レンジの手元では、放送の準備が進んでいた。
壊れかけの声導管に魔力を流し込み、途切れがちな電流を必死に繋いでいる。
機械はしばしば火花を散らし、ノイズを撒き散らしては止まった。
「沈黙の雷でほとんどの回路は壊された。けど……残った古い装置を拾い集めれば、なんとかなるかもしれない」
彼はそう言いながら、また別の部品をはめ込む。
私はその横顔を見つめていた。
自分の声を恐れ、出せずにいる私とは違う。
彼は声を信じ、どんなに壊れた世界でも諦めずに声を届けようとしている。
◆
試験放送が始まった。
声導管からレンジの声がかすかに広場へ響く。
「……誰か、聞こえていたら、返事をしてほしい」
石造りの建物に反響して、声が幾重にも重なって返ってくる。
人々の影が遠くに見えたが、誰も応答はしない。
扉が固く閉ざされ、窓の隙間からのぞく瞳はすぐに引っ込む。
沈黙は厚い壁のように街を覆っていた。
レンジは一度目を閉じ、深く息を吸った。
「……返事がなくてもいい。放送を続ける。
声が途切れなければ、きっとどこかで届く」
その言葉に、胸が熱くなった。
◆
私は思わず声を出そうとした。
けれど呪いが喉を締めつけ、響きは別の言葉に歪みそうになる。
「……っ」
震える唇から出たのは、かすれた音だけ。
恐怖に目を伏せた私の肩を、レンジがそっと支えた。
「無理しなくていい。君の声は、奪われるものじゃない。必ず“本物”として響かせられる時が来る」
彼の瞳はまっすぐだった。
その強さに、心が少しだけ軽くなった。
◆
沈黙の雷が残した街。
声を失った私。
声を届けようとする彼。
二つの孤独が重なったとき、初めて小さな希望の音が生まれた。
私はそれを聞き逃さないように、胸に手を当てて深く息を吸った。
――声を恐れるだけじゃなく、いつか必ず声を取り戻す。
その決意が、ゆっくりと芽生え始めていた。
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