第2話

 カタシェの家はいつも騒がしい。

 常に賑やかで、非常にうるさい。

 たぶん、静けになったら死んでしまうのだ。


 グツグツと鍋が煮え立っている音。

 本棚からボドボドと本が落ち、

 カラスたちが家中を暴れ回って、

 床に散乱した書籍は隙間風に遊ばれて、

 バサバサとページを行き来している。


「あるが!あるが!」


 読書家のカラスがそう叫んだ。

 何を言っているのだろうか。


「い!っっい!」


 ラスが「あるが!」と繰り返す度に

 魔女は「い!」と叱りつける。

 何をしているのだろうか。


 「あいがっ!」

 「いっ!いーっ!るーいーっ!」

 「りーっ!!」

 「るぃっ!るぃっ!あっ、あ・・・・・・」


 舌っ足らずなカタシェには、

 彼女よりも人間の言葉が上手なラスに

 言わせてみたい言葉があるみたいだ。


 「ありが!ありが!」


 魔女はふすす、ふすすと

 声を出さずして笑い、

 妙に透き通って見えるガラス瓶の口を

 機械的に呪文を反復するラスの口に

 突っ込んだ!


 読書家のラスはしばらく静かになった。

 特に抵抗する様子もなく、

 瓶の中にモヤが溜まるのを待っていた。


 ドス黒い液体が容器に充填されると、

 魔女は乱暴にその瓶を引き抜いた。

 そしてゴクゴクと飲み干した。

 瓶を床に投げつけて割った。

 己の身も地に投げ打って、

 苦しそうに騒がしく悶えている。

 彼女がうるさくなる代わりに、

 それ以外の者は静かになって、

 ただ彼女のことを見つめていた。


「あ、ああ・・・・・・ありが!ありがああ!」


 そう叫んだ魔女の顔は途端に

 驚きと喜びとに満ち溢れた表情になり、

 むっくりと立ち上がった彼女に対して

 カラスたちは称賛の羽ばたきをした。


 この魔女はついに、

 言葉を話すための魔法を完成させた。

 他の人間から言葉をもらう魔法が、

 ついに出来上がってしまったのである。

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